1科学文明は第二の自然である。それが生のままの自然と人間の間に介入しているのが文明社会である。それは多くの場合、人間の生活をより安全にし、より快適にしてくれた。しかしまた新しい危険の源ともなった。2醜さ、騒がしさによって、生活をかえって不快にする場合もあった。第二の自然は当然の結果として、人間と人間の間にも介入してきた。それは、一方では確かに人間と人間の接触をより容易にした。直接会って話をする余裕のない場合には、電話が役に立った。3飛行機の発達に伴って、遠くはなれた国々の人たちと直接会って話しあうことがずっと容易になった。科学文明の発達によって、地球上の人々を互いに結びつける糸の数は、急速にふえていった。身近の人たちだけでなく、遠い所に住む人たちとも、「目に見えない糸」で結びつけられるようになってきた。4人類の一員としての運命の連帯感が、往々に人々の心の中に定着しはじめたのである。世界の平和の永続と人類の繁栄のための強固な地盤が、形成されつつあるのである。
残念なことにはしかし、ここにも全く逆の場合が見出されるのである。5人間と人間の間に第二の自然が介入してきた。人間の集団と集団の間にも介入してきた。それは多くの場合、相手をよりよく理解させるのに役立ってきた。互いに相手に対して、より大きな信頼感を持たせる結果となる場合が多かった。6ところが相手に対する不信感がそれでも消せなかった場合には、正反対の結果を生じた。それぞれの側が自分をまもり、相手を倒すための最も有効な手段として、科学文明が利用されることになった。ここでは第二の自然は恐るべき破壊力となるのである。7天使の姿から悪魔の姿へと豹変するのである。
もう一つ恐ろしいことがある。人間と人間の間に、人間の集団と集団の間に、第二の自然が介入する。両者は互いに遠くはなれていても、第二の自然の力を利用して、争うことができる。8目の前にいる相手をなぐったリ、傷つけたりすることは、決してしないという思慮分別が、そのまま遠くはなれたところにいる多くの人々を殺傷する結果となるような行動を自制するのに、十分な力となると
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