杉野君は、洋反物株式会社梶万商店の反物を、遠く地方の呉服店に卸し歩く出張員になったばかりの青年である。初めての出張は出足からうまくゆかず、さんざんな売り上げであった。そして、きょうの目的地はG町――。この旅の最後の日程である。
G町に着いたころはもう一尺先も見えぬ吹雪であった。鈴をつけた馬、がたがたの箱馬車、雪止めの新しい莚、そんなものが雑然と並んでいる駅前で、杉野君はぼう然と立ちつくしてしまった。土地の人々は自然に柔順な人たちのみの持つ敬虔さで、ただ黙々と動いていた。
杉野君はまるで吹雪に吹きこまれた人間のように、近江呉服店へ転がりこんだ。店には誰もいず、黒々と古風にくすんだ店構えがしんと静まりかえっていた。囲炉裡に火が赤々と燃え、鉄瓶からは白い湯気が暖かそうに立っていた。杉野君は雪を払いながら、何かほっと安堵した気持ちになっていった。ふと顔を上げると、奥の帳場に一人の少女が手に雑誌を持ったままこちらを向いてほほえんでいた。えくぼが白い花のように美しかった。
「あの、東京の梶万でございますが。」
杉野君ははっとしてお辞儀をした。少女も学校でするように丁寧に頭を下げると、そのままばたばた奥の方へ走って行った。裾の短い着物の下にすっくりと伸びた白い脚、そうしておさげに結んだ赤いりぼんが、蝶々のように奥へ飛んで行った後を、杉野君は夢のようにじっと見送っていた。
「ほうほう。それははあ。」
そこへ主人がそう言いながら、煙草盆を提げて出てきた。
「ひどい雪ではあ。さあ寒い時は火のそばがいちばんす。」と、炉辺にすわりながら、煙管で煙草を吸うのだった。杉野君も挨拶をしてすわった。
「こうぞ、こうぞ。」
主人は突然大声で小僧を呼び、
「座布団こさ持ってこ。」と命じるのだった。杉野君は囲炉裡にこ
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