1アナウンサーの仕事で「聞く」といえばインタビュー。インタビュー番組は、動きの多い生中継や、細かい編集を重ねた企画番組などと比べると、一見地味に見えます。しかし、アナウンサーにとって、インタビューは最も緊張する仕事。2「聞く力」を持っていないと、薄っぺらいものになってしまうからです。では、「聞く力」とは、どんな力なのでしょうか?
「この人は、私に関心を持っている」。話を聞く相手に、そのように信頼してもらうことが、聞くための最初の一歩です。3そのためにアナウンサーは、インタビューに先立って、話を聞く相手のもとに繰り返し足を運ぶこともあります。たとえば、Aさんというお年寄りに、戦争体験についてインタビューをするとしましょう。4事前にAさんの戦争体験を取材するのは基本ですが、それだけでなく、何度もお宅に通って、Aさんの生い立ちや、家族との関係、打ち込んできた仕事や趣味についてなど、Aさんの人生年表が出来るくらい聞き込むこともあります。5そうしたプロセスの中で、聞き手のアナウンサーの中には、Aさんに対する深い関心が生まれます。そのことがAさんに伝わることで、Aさんも、「本当の気持ちを話してもいい」という信頼感を持ってくれるのです。
6こんな経験もあります。平成十二年、北海道の有珠山が噴火した際、私はニュース番組のリポーターとして現地に入りました。地震と噴煙におびえながら避難所で不安な日々を送る被災者の声を伝えるのが私の役割でした。7しかし、取材を始めた頃は、なかなか思うように話を聞くことが出来ませんでした。それでも、毎朝七時前から夜九時頃まで避難所にいると、そのうち被災者の方が顔を覚えてくださり、声もかけてもらえるようになり、避難所の子どもたちとも遊ぶようになって、自然に話を聞くことが出来るようになりました。8特別なことをしたわけではありませんでしたが、話を聞かせていただくための前提になる「信頼関係」のようなものが生まれるために、「そこにいる時間」が必要だったのだということを感じた出来事でした。
9インタビュー番組などで、素晴らしい聞き手といわれるベテラン・アナウンサーと著名人のゲストのトークに、若手のアナウンサーやタレントが加わっていることがあります。「ベテラン・アナウ
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