1. 【1】
記憶には、さまざまな
種類があります。トランプの「
神経衰弱」の
記憶にあたるものは「
短期記憶」です。これは
必要のある
短い間だけ
覚えているものです。【2】そのときにだけ
必要な
記憶をいつまでも
覚えていると、
頭の中が
余分な
記憶でいっぱいになってしまいます。
役目が
終わったらすぐに
忘れていけるのが、この
記憶の
特徴です。
2. 【3】「
手続き記憶」と
呼ばれるものは、からだで
覚えるといった
種類の
記憶です。
練習して
乗れるようになった
自転車には、
何年たっても
心配なく
乗れます。【4】
水泳やスキーなどもからだが
覚えているので、
言葉で
説明できなくても
自然とからだが
動いていくものです。
3.
言葉の
意味や
数字の
関係など、ふだん
机で
勉強するものは「
意味記憶」です。【5】また
自分だけの
時間や
場所によって
作られる、つまり
思い出にあたるものは、「エピソード
記憶」です。
4.
更に「プライミング
記憶」というのもあります。これは
自分でも
知らない
間に
覚えている
記憶のことです。【6】たとえば、「シカを十
回言って」と
言い、
相手が「シカ、シカ、シカ、……」
言い終わったあとに、「サンタクロースが
乗っていたものは」と
聞くと、つい「トナカイ」と
答えてしまうようなものです。【7】
答えはソリなのですが、シカという
言葉が気がつかないうちに
記憶に
残っているので、シカに
似たトナカイと
答えてしまうのです。
5. 【8】
人間は
単純な
生物から
進化してきましたが、
記憶の中で
進化の
最も早いころからあったものは
手続き記憶です。そのあと、
意味記憶や
短期記憶が生まれ、
最後に
作られた
記憶がエピソード
記憶です。【9】ただ、エピソード
記憶の
仕組みができあがるのは、三、四
歳ころです。ですから、一
歳のお
誕生日に
初めて歩いて、みんなに手をたたかれたというようなエピソードは、
記憶としては
残っていないのです。【0】
言葉の森
長文
作成委員会 α