長文集  10月2週  ★ダイエー・ホークス(感)  1u-10-2
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2020/09/15 12:30:52
 ダイエー・ホークスと言えば、いまは辞め
ましたが、当初は高橋慶彦さんがコーチング
・スタッフに加わっていました。この高橋さ
んは現役時代は広島力ープのトップバッター
として大暴れした人です。
 もちろんプロに投じるほどですから優れた
素質の持ち主ではありますが、プロ選手の中
に混じれば、素質的にはむしろ平凡だったと
言っていいでしょう。高橋選手がレギュラー
を獲得したのは、努力以外のなにものでもあ
りませんでした。猛練習に次ぐ猛練習によっ
て、トップバッターの座を不動のものにした
のです。
 その高橋さんがコーチになってみると、教
える選手はみんな自分よりもすぐれた素質の
持ち主ばかりです。それなのに、その素質を
発揮できないでいる。高橋コーチにしてみれ
ば、じれったいかぎりです。自分がやったと
同じような努力をすれば、素晴らしい選手に
なれるのに、という思いが消せません。その
思いがつい「おまえはだめだ」と選手を否定
する言葉になって飛び出します。否定された
選手がいい気持ちがしないのは当然です。ど
うしても反発するようになります。こうして
、コーチとしての高橋さんはその熱心な指導
ぶりにもかかわらず、成功したとは言えませ
んでした。
 一昨年、私がお手伝いしたチームづくりの
研修会で、高橋コーチはそのことに気づいて
います。「私は無意識のうちに自分を肯定 
し、相手を否定するところから指導していま
した。そうではなく、まず相手を肯定しその
上で指導するのでなければ、成果につながら
ないことがよくわかりました」高橋コーチの
態度変容は、選手にすぐに伝わり、支持され
るようになってきました。その選手の中から
盗塁王、松村選手が生まれたのです。今度コ
ーチに復帰したらもっと大きな実績を上げる
に違いないと思います。きっといい指導者に
なることでしょう。
 そう言えば、「名選手、必ずしも名監督な
らず」とよく言いま す。名選手というのは
、無意識のうちに自分のレベルでものごとを
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
42
43
考えてしまいます。自分が監督になってみる
と、選手は自分のようにはできない。だから
、選手たちはだめというのが、まず前提にな
る傾向がある。選手を肯定した上で導くので
はなく、まず否定した上で導こうとする。こ
こに名選手が名監督たり得ない問題があるよ
うに思われます。
(「致知」九十七年五月号 北森義明氏の文
章より)