長文 12.2週
1. 景気動向の二つ目のポイント、個人消費についてです。GDP(国内総生産)の六十%が個人消費ですから、この動きがどうなるかは重要です。
2. 個人消費には明らかに新しい動きが出ています。個人消費の九十%が女性にかかっているということです。
3. GDPの六十%を占める個人消費。その九十%に関わる女性。これからの世の中の流れを作っていく主導権が女性に委ねられたことがわかります。
4. 世の中の流れが女性の力で作られるようになったのは、給料が銀行振り込みになってからです。そして、その普及に比例して強まってきました。
5. このことは一つの傾向としてこれまでも言われてきたことでした。だが、世の中の流れを作る主導権が女性に委ねられていることは、いまや傾向とか趨勢とかの段階ではありません。確かな事実なのです。
6. このことがつかめれば、どうすればうまくいくかがわかってきます。
7. これまで人びとはマスメディアを媒介にしてモノを買いました。マスメディアに乗るか乗らないかで、大きく売れ行きが違いました。
8. しかし、女性はマスメディアとはほとんど無縁です。女性はクチコミによって動くのです。女性とクチコミは一体だと言っていいほどです。
9. また、女性の購買行動を観察すれば、すぐにわかることがあります。女性はとことん検討して買うのです。
10. 私もそうですが、男性はたとえばスーツを買うとき、ある店に行きます。サイズもまずまず、色も無難、値段はちょっと高いといったスーツが目に入ります。すると、まあ、これでいいか、と買ってしまいます。男性の買い方はだいたいこんなものです。
11. 女性はこんな買い方はしません。店を五、六か所めぐり、デザイン、サイズ、色、品質、値段とあらゆる面を徹底的に比較、検討するのは普通のことです。気に入らないと買いません。だから必然的に、本物だけが売れるということになります。
12. 昨年十月に開催した“フナイ・オープン・ワールド”では、世の中の主導権が女性に委ねられていることを痛感しました。たとえば、約百社が出展した未来型商品や面白い商品です。正直に言って、その中には私の目から見て、少し気になるものもいくつかありました。しかし、出展料をいただいていることではあるし、と特別気にしませんでした。
13. ところが女性は、あんなつまらないものを何で出したのか、こんな偽物を出すなんて、と遠慮会釈のない声をどんどん寄せてきます。女性はその場で瞬時にいいものと悪いものを見分けるのです。本当に怖いと思いました。
14. 以上のことから、女性主導の流れをつかまえ、うまくやっていくにはどうすればいいかがわかります。
15. 小売業の場面で言うと、最初に述べたように、明るくすることです。暗いイメージは徹底的に排除しなければなりません。そして、クチコミで売ることです。本物を志向することです。
16. では、男性はどうすればいいのか。あるモノが売れたり、客が集まってきたり、という現象が出てきたら、それをどう生かすかを考えるのが男の役割です。男性が流れを作ろうとしたりしてはいけません。そういう世の中になってきた、いや、そういう世の中になっているということを、しっかり受け止めるべきです。
17.(「致知」九十七年二月号 船井幸雄氏の文章より)