長文 3.3週
1. 【1】みよ子  こちゃんは、このあいだから、こっそりおもいつづけていることがあります。
2.――いっちゃおうかな……と、よるになるとおもいます。でも、ちょっとはずかしくって、いえないのです。けれど、きょうはほしのとくべつにきれいなよるでした。【2】そこで、みよ子  こちゃんは、とうとう、おねだりしたのです。
3.――ね、おとうさん、おねがい。
4. ほほう……と、おとうさんは、めずらしそうにふりむきました。
5.――あれ、とって。
6. みよ子  こちゃんは、そらにたくさんあるほしをゆびさしました。
7. 【3】あははは。おとうさんはわらって、
8.――あれは、だめ、ほしだもの。
9. みよ子  こちゃんのかおはクシャンとゆがんで、べそをかきました。どうしてほしならだめなのかしら。
10. おにいちゃんなんか、あんな高いたか ところをとんでるトンボでも、ひょいとつかまえてくるのに……。
11.【4】――あれはね、とってもとおいところにあってとても大きいおお  んだ。
12. けれどもみよ子  こちゃんには、おとうさんのせつめいなぞみみにはいりません。おもいつづけていたことを、やっといったのに、あははは、とわらわれちゃったんですからね。
13. 【5】みよ子  こちゃんはだまっていえをでていって、うしろのおかにのぼりました。そらほしに、いっそうちかくなったのするところです。そして、そこにしゃがんでなきはじめました。
14. エーンエンエンエン
15. 【6】大きなおお  なみだが、ポタンポタンとおっこちて、つちにすいこまれてゆきます。すると、そのへんでへんなおとがするのです。
16. コボン、コボ、コボ、ポコン
17. みよ子  こちゃんはきみがわるくなって、なきやみました。【7】そしてたちあがったとたん、ポウン……と、足もとあし  つちがはねのけられて、みょうないきものがかおをだしました。
18.――えへへ、ぼく、モグラだよ。
19. モグラなんて、しりません。∵
20. 【8】けれどモグラのほうは、いっこうにへいきでつづけました。
21.――みよ子  こちゃんが、あんまりなみだをおとすんで、ぼくのいえのまえのみちね、そこの天井てんじょうがゆるんじまうんでね。
22.――あら、ごめんなさい。
23.――みよ子  こちゃんはあやまりました。
24.【9】――だって、わたし、そんなところにおうちやみちがあるなんて、気がつかき   なかったんだもの。
25. するとモグラは、みじかいをふって、いやいや、べつにあやまってもらわないでも……。そこでふたりは、はなしはじめました。【0】そしてみよ子  こちゃんがほしのことをいうと、モグラは、なあんだ、といったかおつきでいうのです。
26.――ようがす。
27. それからくるりとまわれみぎ、五ふんもしないうちに、またあなからかおをだすと、
28.――これですよ、かけらしかとれませんでしたがね。
29. ひょいとさしだしたのは、つちのかたまりです。こんなつちなんて、と、みよ子  こちゃんがうけとらないでいると、モグラはいうのです。
30.――だってこの地球ちきゅうも、ほしの一つなんですよ。そらのむこうからみれば、あおく光っひか て、くるくるまわってるんです。
31. へええ、そうなの、と、みよ子  こちゃんはおもいました。

32.「ぽけっとにいっぱい」『ほしをもらった』より(今江いまえ 祥智よしとも)フォア文庫ぶんこ