長文集  5月1週  ○僕たちは人間として(感)  ha2-05-1
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2011/02/09 15:22:28
 【1】僕たちは人間として生きてゆく途中
で、子供は子供なり に、また大人は大人な
りに、いろいろ悲しいことや、つらいこと 
や、苦しいことに出会う。もちろん、それは
誰にとっても、決して望ましいことではない
。【2】しかしこうして悲しいことや、つら
いことや、苦しいことに出会うおかげで、僕
たちは、本来人間がどういうものであるか、
ということを知るんだ。
 心に感じる苦しみや痛さだけではない。【
3】からだにじかに感じる痛さや苦しさとい
うものが、やはり、同じような意味をもって
いる。健康で、からだになんの故障も感じな
ければ、僕たちは、心臓とか胃とか腸とか、
いろいろな内臓がからだの中にあって、平生
大事な役割をつとめていてくれるのに、それ
をほとんど忘れて暮らしている。【4】とこ
ろが、からだに故障が出来て、動悸がはげし
くなるとか、おなかが痛み出すとかすると、
はじめて僕たちは、自分の内臓のことを考え
、からだに故障の出来たことを知る。【5】
からだに痛みを感じたり、苦しくなったりす
るのは故障が出来たからだけれど、逆に、僕
たちがそれに気づくのは、苦痛のおかげなの
だ。
 【6】苦痛を感じ、それによってからだの
故障を知るということは、からだが正常な状
態にいないということを、苦痛が僕たちに知
らせてくれるということだ。【7】もし、か
らだに故障が出来ているのに、なんにも苦痛
がないとしたら、僕たちはそのことに気づか
ないで、場合によっては、命をも失ってしま
うかも知れない。だからからだの痛みは、誰
だって御免こうむりたいものに相違ないけれ
ど、この意味では、僕たちにとってありがた
いもの、なくてはならないものなんだ。【8
】それによって僕たちは、自分のからだに故
障の生じたことを知り、同時にまた、人間の
からだが、本来どういう状態にあるのが本当
か。そのこともはっきりと知る。
 【9】同じように、心に感じる苦しみやつ
らさは人間が人間として正常な状態にいない
ことから生じて、そのことを僕たちに知らせ
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てくれるものだ。そして僕たちは、その苦痛
のおかげで、人間が本来ど∵ういうものであ
るべきかということを、しっかりと心に捕ら
えることが出来る。【0】

(吉野源三郎『君たちはどう生きるか』より