長文集  1月1週  二つの除夜の鐘  he-01-1
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2014/12/14 12:08:10
 【1】私の家では、大晦日に二つの「除夜
の音」が聞こえる。一つは除夜の鐘、もう一
つは「除夜の汽笛」だ。私は横浜に住んでい
て、家は高台にある。【2】だから年末には
、近所の寺から響く「ゴォーン、ゴォーン」
という鐘の音と、港で鳴らされる「ブォー 
ウ、ブォーウ」という汽笛の音が聞こえてく
るのだ。ベランダに出て、そんな二つの音に
耳を傾けるのが、毎年私のひそかな楽しみで
ある。 
 【3】大晦日の夜の空気は、いつもと違う
。普段なら「うう、寒い寒い、早くこたつに
入りたい」と思うだけなのだが、この日ばか
りはその寒さが、身も心も引き締めてくれる
感じがする。【4】長かった一年が終わろう
としていることを、実感するからかもしれな
い。 
 ある友達は毎年、大晦日にはアイドルのカ
ウントダウンコンサートに行っているらしい
。しかも、お姉さんやお母さんまで一緒だと
いうから驚きだ。【5】そして夜遅くまで開
いているお店で、豪華な外食をして帰ってく
るのだという。それはそれでたいへんにぎや
かで、楽しそうだと思う。しかし私にとって
は、そういう大晦日はなんだか落ち着かない
。【6】どこかに出かけるわけでも、何かを
するわけでもなく、静かに過ごしたいと思う
のだ。食事だって年越しそばで満足である。
 
 これも聞いた話だが、大晦日にそばを食べ
るのは「細く長く」生きていけるように、つ
まり来年も「大きな波乱なく、平穏に暮らせ
ますように」という意味があるのだという。
【7】母の手作りのそばをすすっていると、
私もまさにそんな気分になる。
 どのように過ごすかは、人それぞれだ。し
かし人間にとって、大晦日が特別な日である
ことに違いはない。友達は「大晦日ぐらい、
時間を忘れて大騒ぎしたい」と言っていた。
【8】私は逆に、「大晦日ぐらい、時間が過
ぎるのを大切に感じたい」と考えている。そ
うやって、新年を迎える心の準備ができるの
は、大晦日という一日だけではないだろうか
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。「待てば海路の日和あり」というが、∵「
歳月人を待たず」ともいう。【9】楽しいお
正月がやってくるが、のんびりしてばかりは
いられない。 
 一年が過ぎ去ろうとする、大晦日の夜。除
夜の汽笛を耳にするたび、私は背中を押され
るような、前向きな気持ちになる。勇気を持
って、新しい一年へと「出航」していこう。
【0】

(言葉の森長文作成委員会 ι)