長文集  3月1週  忘れられない旅行  he-03-1
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2014/12/14 12:10:05
 【1】僕の目の前に、テストの問題用紙が
山積みされている。教室には誰もおらず、僕
一人。とても静かな、居残り勉強の時間であ
る。いつもなら頭を抱えるか、逃げ出してし
まいたくなるところ だ。しかし、この時の
僕はやる気に満ちていた。【2】なぜなら、
今まで休ませてもらったぶん、ここでがんば
ろうと決意していたからだ。 
 僕はつい昨日まで、北海道にいた。三日間
、旅行へ行っていたのだ。両親が計画したこ
の旅行は、学校のテスト期間とぶつかってし
まっていた。【3】卒業と進学を控えたこの
時に、テストを休んで遊びに行くなんて言っ
たら、怒られるんじゃないか……と僕は思っ
ていた。けれども担任の先生は、 
「学校の勉強より、旅行の方がずっと良い経
験になります。ぜひ行ってきてください。」
と言ってくれた。【4】僕はとても感動した
。だからこそ、旅行から帰った後、テストを
まとめて受けることになっても、嫌だなんて
感じなかったのだ。 
 この旅行は本当に楽しく、新鮮なことばか
りだった。飛行機に乗るのは初めてで、はじ
めは不安もあった。【5】墜落したらどうし
よう、という心配はもちろん、それ以上に、
海外旅行の経験がある友達から「暗いし、混
んでいるし、とても窮屈だった」と聞いてい
たからだ。 
 だが、僕たちの乗った飛行機はビックリす
るくらい空いていた。【6】時季を外れてい
たからで、両親の計画のうちだったらしい。
ばたばたと座席を移動して、色々な方向から
雲の下の景色を楽しむことができた。昔、母
が滑りに行ったという蔵王のスキー場も見え
た。国内の移動だから、二時間も乗っていら
れないのが、残念だったくらいだ。
 【7】北海道では、最初に摩周湖を見た。
雪と霧で一面が真っ 白、それは綺麗だった
のだが、積もった雪が太陽の光を照り返し 
て、すごくまぶしかったことの方が忘れられ
ない。そこで撮った写真では、∵僕は目を細
めて、まるでとても機嫌が悪いかのような表
情をしている。
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
42
43
 【8】他にも、アイヌ族の村を見たり、凍
った湖の上を歩いた り、スノーモービルに
乗ったりした。どれも、先生の言っていたと
おり、同じ冬でも東京にいたのでは決してで
きない経験ばかりだった。 
 気がつけば、僕はいつも以上にサッサッと
問題を解いていた。【9】一番苦手な、算数
のテストも片付いた。人間は、楽しい思い出
があるからこそ、やらなければならない辛い
勉強にも取り組むことができるのだろう。あ
と、机の上に残っているのは、数枚の作文用
紙だけ。最後は、「この冬の思い出」という
課題の作文テストだ。【0】書くことはもう
決まっている。「鉄は熱いうちに打て」とい
う。思い出を文章に残すのも、きっと早い方
がいいに違いない。僕は笑顔でペンを握り直
した。

(言葉の森長文作成委員会 ι)