長文集  3月2週  ★(感)あまのじゃくな人が  he2-03-2
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2012/06/15 08:09:22
 【1】あまのじゃくな人が嫌われるのは、
みんなと歩調を合わせないので、なにかと足
手まといになるからです。人間は一人で生き
ているのではなく、他人とともに生きるよう
につくられているのです。ところが、一人ひ
とりの人間はあらゆる点で違います。【2】
生まれつきの差もありますが、ものの見え方
や音の聞こえ方も経験によって違ってくるよ
うに、後天的につくられる脳機能の差はさら
に大きいのです。その違いがいわば個性とい
うことになります。個性というと、先天的な
差を連想する人もいるので、個人差という方
が誤解が少ないでしょう。【3】単なる感覚
でさえも一人ひとりが違うのですから、価値
観やものの考え方が違うのも当然です。
 このように、一人ひとりが違うのですが、
その違いをお互いに主張し合えば、誰もがあ
まのじゃくになってしまいます。そこで、人
間同士の間には一種のなれあい現象が必要に
なってきます。【4】つまり相手と意見が違
っても、すぐに反論するのではなく、一応は
聞いておいて、自分の意見も修正し、相手の
考え方もおだやかに改めてもらえるように工
夫します。お互いに妥協するということにも
なります。
 【5】たとえば、ある料理を食べたときに
、相手が「さすがにホンモノの味だ」といっ
たとしても、自分にはそうも思えないという
ようなことはよくあります。しかし、それを
口にすることはせずに一応は相槌を打って、
味わい直してみるのがふつうでしょう。それ
でその場はなごやかに過ごせるし、自分の味
覚が進歩することにもなります。
 【6】このように、他人と歩調をそろえな
ければならないときには、誰もがひとりでに
なれあうのがふつうです。従って、あまのじ
ゃくになるひとつの原因は、そこにいる人と
歩調をそろえるつもりがないために、自分の
意見をそのまま主張するということです。【
7】誰に対してもあまのじゃくになるとした
ら、その人はできるだけ自分だけで生きてゆ
こうとする人です。実際はそんなことは無理
であっても、そういう姿勢をとろうとするわ
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けで、どこかで人間嫌いになる原因があった
のでしょう。
 (中略)∵
 【8】動物であれば、吠えたり、さえずっ
たりして、自分の存在を周囲に訴えるところ
を、なにかと他人と違う意見を主張すること
によって自己顕示するというあまのじゃくも
います。
 【9】つまり、あまのじゃくにはいろいろ
の原因があるわけですが、原因はなにであれ
、それが集団の歩調を乱すという意味では迷
惑なことです。あまのじゃくが仁王様にふみ
つけられるはめになるのはそのためでしょう
。特に、日本人は自他の一体性が強いので、
あまのじゃくを嫌うようです。
 【0】しかし、なれあいや妥協も度を過ご
すと、自分独自の考えがなくなり、個性が薄
れてしまいます。特に、創造的な活動を必要
とする場合は、それではまずいということに
なります。「逆転の発想」ということばもあ
るように、天動説が支配的な状況の中で、地
球が動いているのではないか、と考えるよう
な態度が大きな発見につながってゆきます。
創造性の強い人の中には「変人」といわれる
人が少なくありません。部分的にはあまのじ
ゃくとされることも多いでしょう。つまり、
他人と歩調をそろえる心得も持ちながら、自
分の意見をしっかり持っているというバラン
スが必要なのです。

(『ヒトはなぜ夢を見るのか』千葉康則)