長文集  9月1週  おばあちゃんの伝記  hi-09-1
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2014/06/09 09:48:50
【1】「まあ、ありがとう。」
 祖母は目を細めた。今日は、祖母の七十歳
の誕生日。古希(こ き)と言う、おめでた
い節目の年齢だ。私は、小さいころから大好
きだった祖母にどんなお祝いをしようかずっ
と頭を悩ませていた。【2】一つ前の六十歳
のお祝いのときは、小さくてまだ何もわから
なかったので、特別な年の誕生日はこれが初
めてである。最初はお小遣いを貯めて、喜ぶ
ものを買ってあげようかと思っていたのだ 
が、お年寄りの気に入るものを選ぶのはなか
なか難しいし、お金も足りない。【3】そこ
で、私は自分にしか作れない手作りの贈り物
をすることにした。作文、詩、手紙、絵、私
は自分が得意なもので勝負しようと考えた。
親友のちかちゃんのように手芸が得意だった
らさらによかったのだが。
 【4】私は、いろいろなアイディアを頭に
めぐらせた。祖母がびっくりするようなもの
、記念になるようなもの、そして何より私ら
しいものがいいと思った。私は書くこと、創
作が大好きだが、とりわけ、物語を作るのが
好きだ。【5】そうだ、祖母の登場する物 
語、いや、いっそのこと、祖母の伝記を作っ
てみよう。私は自分の壮大な企画に驚いたけ
れど、まだ時間はあるし、ぜひやってみよう
と思った。祖母にわからないように、母や親
戚のおばさんたちから話を集め、少しずつ書
き溜めた。【6】祖母が若いころのモノクロ
の写真も手に入れた。父の手も借りて、パソ
コンを使って編集し た。字は祖母に読みや
すいように大きなフォントにした。きれいな
色のかわいいイラストも入れた。∵
 【7】お祝いの会直前に仕上がった「おば
あちゃんの伝記」は、予想以上のできばえで
、大人たちの豪華なお祝いの品にも見劣りが
しない気さえした。うれしいことに祖母は、
会の間中、何度もそれを手にとって見ていた
。【8】私は、正直なところ、自分がここま
でできると思わなかったので、どうしてこん
なにがんばれたのかを考えてみた。そして、
作っている間中、いつも祖母の喜ぶ顔を思い
浮かべていたことに気付いた。【9】今まで
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は、祖母からしてもらうことばかりだったけ
れど、今度は祖母を喜ばせることができるか
もしれないという思いが原動力となっていた
のだ。私は、この体験を通じて、人間にとっ
て贈りものとは、贈る相手のことを考え、そ
れを形にするという行為なのだなあと思った
。【0】

(言葉の森長文作成委員会 φ)