長文集  7月2週  ★だれにすがるわけにも(感)  hi2-07-2
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2012/06/15 08:09:22
 【1】だれにすがるわけにもいかない。だ
れかにしかられたいと思っても、しかっても
らうわけにはいかない。先輩も、同僚もいな
い。親もいなければ、きょうだいもいない。
しかも、生きるか死ぬかというときです。【
2】全部自分で引き受けるしかない。自分の
判断に基づく行動のほか何にもない、こうい
う状態が自由です。だから、自由というのは
こわい。ぞっとするほどおそろしい。
 【3】われわれは、つね日ごろは、先輩な
り、後輩なり、友だちなり、親があり、先生
があり、そのほかいろいろあります。しか 
し、ほんとうの自由というのは、全部取り払
って、自分一人きり、それが全責任を負う。
【4】自分の判断に全部をまかせる。この状
態が自由です。人間というものは、本質的に
は自由の続きですが、さいわい、そんなこわ
いことばかりでなしに、あれこれとたよるべ
きものがある。しかし、ほんとうの自由とい
うものは、そういうものだということを、は
っきり知っていないと、こまるのです。【5
】ぼくは自由ということばをきょうはだいぶ
しゃべりましたが、めったに口にしません。
こわいことばですから。ぼくは自分の文章 
に、自由ということばをそんなに無造作に書
きません。自由なんてことばを聞くと、どき
っとします。
 【6】しかし、ぼくのように自由を受け取
っている人は、そんなに大勢いないでしょう
。それどころか、自由と聞けば、とたんにダ
ンスのステップでも踏み出しかねないかっこ
うをする人が多くて、まったく閉口です。
 【7】ことばだけを口先でしゃべりまくっ
て、何か事が済んでいるみたいなところに、
教育の普及国でありながら、日本はひどく変
なところ、ひどく不幸なところがあると思い
ます。【8】くりかえしになりますが、自由
ということは、たった一人の人間、たった一
人の自分というものの責任においてはじめて
可能になるということです。
 【9】では、たった一人の自分だけでいい
か、ということになると、そうはいきません
。次は、たった一人の人間が、別のたった一
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人の人間とどう結びつくかという問題です。
【0】ほんとうに、自分というものをしっか
り握って──オウムのように何だかわけのわ
からぬことを口ばしって疑いも持たないよう
な人間でなくて、うっかりすると、人ごみに
まぎれこんでしまいがちな自分というもの 
に、いつも目をくばって、自分で自分を監督
する。めいめいの人間が自分にブ∵レーキを
かけることを忘れない。そんな社会を文明社
会といいます。めいめいがそれぞれ、ブレー
キを持って、まさかのときは、自分でブレー
キをかけることを忘れない。こういう人間の
集まっている所が文明社会です。そういう、
ひとりひとりが自分をしっかり握って、行く
え不明にならないように、自分が自分を監督
する。こういう人間と、もう一人のそういう
人間との結びつき、これが社会というものの
根本です。

(臼井吉見の文章による)