長文集  8月3週  ★私が考えてみたところでは(感)  hi2-08-3
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2012/06/15 08:09:22
 【1】私が考えてみたところでは、自分に
は生きがいがあるかどうか、とか、生きがい
とは何か、などと人が考えるのは、青年期に
いろいろな人生問題を悩むときか、【2】ま
たはすっかり年とって心身ともにおとろえ、
自分でも生きているのがつらくなり、他人に
も迷惑でないか、さりとて、どうしたらいい
か、などと悩むときが多いような気がします
。【3】そうでなければ、人生の途上、何か
たいへんつらい目にあったりして、生きて行
く望みを失ったとき に、ああ、もう自分は
生きがいがない、などと思い悩むものだろう
と思います。【4】つまり、生きがいという
ことばが、ふつうの人の頭に浮かびあがって
くるのは、まさに生きがいが奪われそうにな
ったり、ある生きがいが失われたりしたとき
なのだろうと考えられるのです。
 【5】そもそも生きがいということばの意
味は何でしょうか。辞書をひいてみると、「
生きているだけのねうち」とか「生きている
幸福・利益」などと書いてあります。【6】
この二つの定義がならべてあるところをみる
と、この二つはたがいに無関係ではなく、幸
福とか利益とかいっても、それは「ああ生き
ていてよかったなァ」「生きているだけのこ
とがあったなァ」と感じるよろこびの心を内
容としているものだろうと思われてきます。
【7】ですから生きているだけのねうちとい
っても、それは自分で自分に向かってみとめ
るものであって、他人がみとめるものとは限
らないといえましょ う。
 【8】ここが生きがいについてのたいせつ
なところだと思いま す。万人がうらやむよ
うな高い地位にのぼっても、ありあまる富を
所有しても、スター的存在になれるほどの美
貌や才能を持っても、本人の心の中で生きる
よろこびが感じられなければ、生きがいを持
っているとはいえないわけです。
 【9】こうみてくると、生きがいある生涯
を送るためには、何かしら生きがいを感じや
すい心を育て、生きがいの感じられるような
生きかたをする必要があるのではないか、と
思われてきます。【0】もちろん、人間の心
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はたえず生きがいを感じるようにはできてい
ないので、一生のうち何べんか、「ああ、生
きていてよかったな ァ」と感じられるよう
な瞬間があればありがたいとすべきでしょ 
う。たえず生きがいを感じて喜んでいるとい
うのは、むしろふつうでないのではないかと
考えられます。
 さて、こういうことを承知のうえで、生き
がいを感じる心とはど∵んな心かと考えてみ
ますと、それは結局、感受性のこまやかな謙
虚な心、何よりも、「感謝を知る心」だろう
と思われます。欲深 い、勝気な心の正反対
です。感謝を知るというのは、何か特に他人
が自分によくしてくれた場合だけでなく、自
分の生というものを深くみつめて、どれだけ
の要素がかさなりあって自分の存在が可能に
なったのかを思い、大自然にむかい、ありが
とう、と思うことをいっているのです。
 次に、生きがいが感じられるような生きか
たとはどんなものかを考えてみましょう。生
きがいとは生きているだけのねうちというこ
とでしたが、この「ねうち」が、自分にもっ
ともはっきり感じられるときのひとつは、自
分の存在が何かのために、だれかのために必
要とされていると自覚されるときでしょう。
それも、ただ飾りのようなぐあいに必要とさ
れるのではなく、他人では代用できない任務
や責任を負った者として必要とされるときに
、一ばん強く意識されるでしょう。