1. 【1】理解できなくても、理解者になることができる――この発想がとても大切です。
2. では、どうしたら
私たちは、苦しんでいる人から見て「理解者」になることができるのでしょうか?
3. 【2】理解者になることは、面白い話をしてくれる人になることではありません。がんばってねと
励ましてくれる人になることでもありません。知らんぷりをする人になることでもありません。
4. そばにいて、ただじっと
聴いてくれる人が、わかってくれる人になるのです。
5. 【3】
私は、この場合の「きく」には「
聴く」という漢字をあてて、「聞く」とはあえて区別して用いるようにしています。
6.
一般的に、聞くということは、自分が何かを知るために行なうことです。【4】つまり、「自分の知りたいこと」を知るために聞くのです。
7. 苦しむ人を前にすると、医師は「いつから具合が悪いのか」「何か良くないものを食べたか」「ほかに具合の悪いところはないか」など、病気を
疑って問いかけます。【5】
皆さんであれば、「どうしたの? 何かつらいことがあったの?」など、いろいろ質問をするかもしれませんね。
8. しかし、ここで
紹介したい「
聴くこと」は、自分が理解するための「聞くこと」とは
違います。【6】相手から見て、わかってくれたと思えるための「
聴くこと」です。自分が知りたいことを聞くのではなく、相手から見て、わかってもらえたと思えるように「
聴く」ことがとても大切になってきます。
9.(中略)
10. 【7】苦しんでいる人は、いろいろなサインを出します。言葉であったり、言葉ではなかったりします。そして、
聴き手である「
私」は、そのサインを何か意味があるメッセージとして受け取ろうとします。【8】何か伝えたいことがあるのだと意識して
聴いていく時、相手のメッセージが見えてくることでしょう。
11. そして、そのメッセージを、言葉にします。「あなたのいいたいことは、こういうことですね」という具合に、メッセージを受け取ったことを、相手に伝えます。∵【9】具体的には「反復」という技法を用います。相手の話した大切なカギとなる言葉を、ていねいに反復するのです。
12. 大切なことは、話をした人が、「いいたいことが伝わった」という感覚を持てるかどうかにあるのです。【0】
聴いてもらえたけれど、本当に
聴いてくれた相手に自分の思いが伝わったかどうかわからなければ、
聴くということの意味が半分以下になってしまうことでしょう。
13. たとえば、相手にメールを送ったのに返事がないと、本当に伝わったか心配になる人もいるでしょう。一言、「メール
届いたよ」でも、返事があるとうれしいですね。これと同じです。話した人に対して、あなたのいいたいことは、こういうことなんですね、と返してあげることが、大切になります。
14. これだけでも、苦しんでいる人の気持ちは楽になると思います。わかってくれたとの思いは、満足につながります。そして、安心した気持ちになっていきます。
15. その人は、
聴いてくれた人のことを「わかってくれる人」として
認めてくれるでしょう。そして、
聴いてくれた人を
信頼するようになっていくのです。
16.(中略)
17. 人は、
誰かに「わかってもらえた」と思えた時に初めて、苦しみの中にあっても生きようとする力がわいてくるのだと思います。
18.
聴くことは、とても大切な
援助の方法です。
聴いてもらえるだけで、気持ちが楽になる人もいるはずです。このように
聴くことができたならば、
皆さんは、大切な人の苦しみをやわらげることのできる、素晴らしい
援助者になれるでしょう。
19.(
小澤竹俊『一三
歳からの「いのちの授業」』(大和出版)による)