長文集  10月2週  ★色づいたカキは日本の(感)  hu-10-2
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2012/06/15 08:09:22
 【1】色づいたカキは日本の秋を彩る風物
詩です。カキこそは千年にもわたって日本人
と共にあり、幾多の詩歌に詠まれてきた郷愁
の果物といえます。ガキ大将に率いられたカ
キ泥棒の思い出を持つ読者も多いことでしょ
う。
 【2】カキは中国で生まれ日本で大きく発
展した果物で、また、日本名のままで世界に
通用する数少ない果物でもあります。かつて
農家の庭先には必ずカキの巨木がありました
。とくに干し柿は歴史的に重要な甘味(かん
み)資源でした。【3】「菓子」という字も
元はといえば「柿子(かし)」に由来してい
ます。また、柿はビタミンCを格別にたくさ
ん含む果物です。それはリンゴの二十三倍、
温州ミカンの二倍にも達し、長年にわたって
日本人の貴重なビタミンCの供給源となって
きました。
 【4】日本でカキの栽培史は、八世紀ごろ
までさかのぼることができます。江戸時代に
なると渋抜き法の発達もあって、カキは全国
の「庭先」に普及し、さまざまな地方品種が
生み出され、そうした時代が長く続きました

 (中略)
 【5】大正期までカキは日本の果物の王座
に君臨していました。が、やがてその座は、
新興のミカンとリンゴに奪われ、最近では食
の多様化の中で、生産量はナシにも後れを取
っています。【6】しかし、実態のつかみに
くい「庭先果樹」としては、今もカキの右に
出るものはありません。カキは千年の時を越
えて、今なおただで食べられる日本最大の果
物なのです。
 【7】日本での伸び悩みとは逆に、カキは
外国から注目され、新たな世界果実への道を
歩き始めています。特に日本とは季節が逆に
なるニュージーランドでは、時期はずれの日
本への逆輸出まで行いつつあります。
 【8】幸か不幸か、カキは早生品種の開発
が難しく、また「桃栗三年柿八年」といわれ
るように、育種に時間がかかり、その作期は
今も昔もあまり変わっていません。【9】寒
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い夜に鐘の音でも聞き∵ながら食べるのが似
つかわしい、昔ながらの季節を感じさせてく
れる果物です。この日本古来の秋の味覚が、
南半球育ちの参入によって、初夏の味覚に変
貌しないとも限らない昨今です。
 【0】さて、周知のようにカキには甘ガキ
と渋ガキとがありま す。昔の悪童たちは、
どこの家のカキが甘いか渋いかを経験的に知
っていました。カキの渋みの本体は特殊なタ
ンニン細胞に含まれるタンニンです。カキが
未熟のころは水(果汁)に溶ける性質があっ
て渋く、成熟にしたがって自然に水に溶けな
い性質に変わって黒い「ゴマ」になり、渋み
がなくなります。甘ガキでは成熟するまでに
そうした変化が完了しますので、収穫したカ
キをすぐに食べることができます。しかし、
渋ガキでは成熟しても可溶性タンニンが残 
り、収穫後に人為的な渋抜きが必要になりま
す。
 甘ガキの品種も多いのに、そんな手間をか
けてまで渋ガキにこだわるのは、とろけるよ
うな肉質が甘ガキでは遠く及ばない上に、寒
冷地では甘ガキも温度不足で渋が抜けず、甘
ガキの産地が暖地に限られているためです。
(中略)
 カキはなぜ渋いのか? あたり前のことの
ように思えますが、その生物学的な意味につ
いてはこれまで追求されたことがほとんどな
かったようです。
 渋ガキの渋もいわゆる「熟しガキ」になる
まで木の上に置いておけば抜けます。しかし
渋いうちは鳥もタヌキも手を出しません。渋
は無用な時期に果実が動物に食われるのを防
ぐ、「適応」的な意味を持っていると思いま
す。果実が赤く完熟してタネが充実し、渋み
のなくなる「熟しガキ」の時期こそが、動物
たちの食べたい気持ちと、タネを運んでほし
いカキの思いとが一致する時なのでしょう。
こうした、渋を抜いてまで若いカキを食べて
しまうヒトの出現は、カキの進化にとって勘
定外のことだったに違いありません。

 (『果物はどうして創られたか』梅谷献二
・梶浦一郎())