長文 1.1週
1. 【1】
今日、ぼくは、ムサシの
家に
遊びに
行きました。ぼくとムサシは大の
仲良しで、学校でもよく
遊んでいます。ムサシの
家で、ポケモンのゲームの
攻略本を
読みました。
難しくてよくわからないところもあったけれど、ムサシが
説明してくれました。
2.【2】「なんだ、こんなふうにやればいいのか。」
3.ぼくは
大発見をしたかのように、
興奮してきました。すぐにでも
家に
帰ってDSをやりたくなってきました。
4.「おれ、
今日は
帰るね。バイバイ。」
5.と、ムサシにさよならして
家に
走りました。【3】まるで
獲物を
狙う動物のように
全速力で
走りました。
家に
帰ると
早速、
6.「ねえ、
お母さん、ゲームやってもいい?」
7.と、
お母さんをそっと見ながら
言いました。
お母さんは
少し考えてから、
8.「うーん、じゃあ、三十
分だけね。」
9.と
言いました。
10.【4】「やった。ありがとう。
絶対三十
分で
止めるね。」
11.と
言いながら
時計を
確認して、DSの
電源を入れました。ピコーンピコーンピコーンといい音がしました。わくわくします。ぼくは、さっき
覚えてきた
やり方を
片っ端から
試してみました。
12.【5】「ええっ、なんだ、これでいいのか。」
13.「これなら
簡単。」
14.など、ぼくは
大騒ぎです。ひとりでゲームをしているのに、まるで
友達といっしょにやっているようにしゃべりました。
今までクリアできなかったことが、
簡単にできてしまいます。
楽しくてたまりません。【6】ぼくはもう
夢中です。
時計を見ることさえ
忘れていました。
15. ふと気がついて
時計を見ると、
残り時間はあと五
分です。もっと
続けていたいけれど、
約束は
守らなくてはいけません。
約束の
時間∵を
守れなくて一
週間ゲーム
禁止になったことが
何度かあるからです。【7】ゲーム
禁止なんて
二度とごめんです。ぼくは、ちょうど一
分前に
電源を
切りました。ギリギリセーフでした。
16.「
お母さん、いまやめたよ。ちゃんと三十
分でやめたよ。」
17.ぼくは
得意そうに
言いました。【8】
お母さんは、
18.「
約束が
守れて
偉かったね。
今日は
盛り上がってたね。」
19.とにっこりしました。
20.「うん。
今日はすごく
進んだ。ムサシに
やり方を
教えてもらったからね。」
21.と、ぼくが
今日のことを
説明しました。【9】
お母さんは、
22.「
今日みたいに
約束が
守れると、
お母さんも
気持ちよくゲームをやっていいって
言えるよ。
次も
守ろうね。」
23.と
言いました。ぼくも、ほんとうにそのとおりだと
思いました。【0】
24.(
言葉の森
長文作成委員会 ω)∵
25. 【1】オリンピックのメダルが一
位から
順に金、
銀、
銅でできているように、金は
大昔から、とても人気のある
金属でした。なにしろ
他の
薬品におかされず、やわらかくてコインやアクセサリーにも
加工しやすく、そして何より
美しかったからです。【2】しかし、金は、一トンの
金鉱石の中から、わずか三グラムから五グラムくらいしか
取れないという
貴重なものです。
26. 今から八百年くらい
昔、ヨーロッパの人々は、
珍しい食べ物や
宝物を
求めて、まだ知られていない海の
向こうの国々へと出かけていきました。【3】その中の一人、マルコ・ポーロは、
旅の
途中で見聞きしたことを
集め、のちに『
東方見聞録』という本を出しました。その中で、
東洋には「ジパング」という名前の「
黄金の国」がある、と書きました。
27. 【4】この「ジパング」というのは、
実は日本のことで、日本の
英語名である「ジャパン」はこれに
由来しています。マルコ・ポーロ
自身は、
実際に日本を
訪れたことはなく、中国で聞いた話として書いただけでした。【5】しかし、この本に「ジパングにはものすごい
量の
黄金があり、国王の
宮殿はすべて金でできている」と書かれていたため、コロンブスも、この
黄金の国を
求めて船出したのではないかと言われています。
28. 【6】ヨーロッパの人が
夢見た「
黄金の国」ほどではありませんが、日本にはかつて
佐渡や
鴻之舞など、とてもりっぱな金
鉱山があり、
貴重な金がたくさんとれていました。しかし、これらの
鉱山もやがて
掘り尽くされ、今ではそれほどたくさんの金をとることはできません。
29. 【7】そこで、
最近注目されているのが、「
都市鉱山」と言われるものです。
実は、パソコンや
携帯電話、
液晶テレビなどの中には、「レアメタル」と
呼ばれる
貴重な
金属が、
少量ずつですが
使われています。【8】その中にはもちろん、金もあります。ですか∵ら、これらの
機械をうまくリサイクルして、その中の
金属を
取り出して
使おう、という
試みが
始まっています。【9】家電
製品などがたくさん
使われている日本には、
世界有数の
都市鉱山があると言われています。
30. 今も
昔も、大人気の金。リサイクルを
進めて、日本は
再び、「
黄金の国」になれるでしょうか。【0】
31.
言葉の森
長文
作成委員会 τ
長文 1.2週
1. 【1】そうじをおわって、わたしがかえろうとすると、
運動場から、バラバラと男の子たちがやってきて、わたしをとりかこみました。
2. (こりゃ、ひとあばれけんかをしなけりゃならなくなったぞ。)わたしはそう
思いました。【2】でも、けっして、その男の子たちがにくらしかったわけではありません。ほんとうは、はやく、その子たちといっしょになってあそびたかったのです。めいわくだったのは、むしろしんせつにしてくれる女の子でした。
3. 【3】(あの子がこなければよいが。)みんなにかこまれて、わたしがそうおもったとき、もう女の子は見つけて、こちらにかけてくるのがわかりました。
4. 【4】と、わたしは、いちばんちかくにいた男の子を、ポカンとぶっていました。それから、とっくみあいになりました。ほかの男の子たちは、わたしの先手に、いささかあきれたかっこうです。
5. 【5】女の子は、それを見ると、わたしがさきに手をだしたこともしらずに、先生をよびにいきました。とっくみあいになると、なかなかしょうぶがつきません。
6.「おい、先生がきたぞ。」
7. だれかがいいました。そして、ほかの男の子たちが、学校の
外へにげだしました。【6】わたしも、とっくみあいをちゅうしして、みんなといっしょに、にげました。
8. わたしは、ごくしぜんにみんなといっしょににげだせたのがうれしくてたまりませんでした。わたしたちは、学校が見えなくなるまで、フーフーいいながら
走りました。【7】そして、ひとりが草の中へ、
9.「ああ、しんど。」
10.とたおれこむと、みんなも草の中へころがりました。わたしは、いまさっきけんかをしたこともわすれていました。ところが、あいてはわすれていなかったのです。とつぜん、おかしなことをいいだしました。
11.【8】「おまえ、へびつかめるか。」
12.「つかめらい。」
13. わたしは、そうこたえずにはいられませんでした。それに、へびなど、そうかんたんにいるものとはおもっていませんでした。
14.「
大阪の
天王寺の
動物園には、こんなふといへびがいるぞ。【9】おら、そいつにさわらせてもらった。ぬるっとして、手がぬれたぞ。」
15. なぜ、じぶんのいちばんおそれていることを、わたしはわざわざしゃべってしまったのでしょう。もちろん
動物園で、にしきへびに∵さわれるわけがありません。【0】へびがぬるっとしていて、手がぬれるなんて、まったくでたらめです。いいえ、わたしはそんなゆめを見て、いく
夜うなされたかしれません。
16. ところが、あいての男の子は、そのとき、まったく手じなのように、草むらの中から、へびをみつけだしたのです。しっぽをつかむがはやいか、バン、バンと、土の上にたたきつけました。小さなしまへびではありましたが、わたしはもうぶるぶるとふるえていました。
17.「さあ、つかめ。もうかみつきよらん。」
18. みんなは、わたしがどうするか見まもっていました。
19.「はよう、つかまんか。こわいのか。」
20. わたしはだまってつかみました。つかむとどうじに、それをぶんぶんふりまわしました。とても、じっとなどつかんでいられませんでした。へびは、すこしもぬるっとなんかしていませんでした。むしろざらっとしたかんじです。これはほんとうにいがいでした。
21. わたしはへびをふりまわしながら、みんなにちかづけました。さすがにみんなにげました。ふと気がつくと、むこうのほうから、さっき学校でいっしょにそうじをしていた、女の子たちがふたりでかえってきます。わたしはへびをふりまわしながら、その子たちのほうへ
走りました。
22. 女の子は、わたしがそんなことをしているのを見ると、ハッとしたようにたちどまってから、それがへびであることがわかると、キャッとさけんで、にげだしました。
23. なんでそんならんぼうをしたのか、じぶんでもふしぎでした。
24. あくる
朝、先生からたいへんおめだまをいただきました。
25.「なにもわるいことをしないへびをころして、おまけに、女の子をいじめるなんて、いちばんひきょうもののすることだぞ。」
26. 先生にそういってしかられました。つくえをならべた女の子は、わたしをよけるように、つくえのはしっぽにすわり、口もきいてくれなくなりました。
27. へびをつかむなんて、ほんとうにつまらぬことです。でたらめのうそをいったばかりに、じぶんのいちばんきらいだったへびをつかんでみせなければなりませんでした。
28. でも、そんなことがあってから、わたしは、すぐ山の
友だちとなかよしになりました。へびもこわくなくなりました。二年ほどしかいませんでしたが、たのしい山の小学校でした。
29.「ほらふきうそつきものがたり」(
今西祐行)より
長文 1.3週
1. 【1】小学校一年生の三がっきのことです。こくごのべんきょうで、かん字が、十二、三字出そろい、それらを、三十かいずつ、ノートに
書くしゅくだいがでました。【2】
絵をかくとか、
作文を
書くというのなら、そんなにいやではなかったのですが、わかりきった字をなんかいも
書いたり、たしざんやひきざんのけいさんもんだいを、たくさんやらされるしゅくだいは、とてもにがてでした。
2. 【3】(三十かいずつか。いやだなあ。日、日、日……。人、人、人……。山、山、山……。ああ、いやだなあ。わかっている字じゃないか。いやだなあ……。)とおもっているうちは、まだいやいやでも
家にかえったら
書こうとおもっていました。
3. 【4】ところが、学校の
門をでて、山のすそをとおり、小川の
土ばしをわたって
家についたころには、すっかりわすれてしまいました。
4. しゅくだいをわすれるのと、ひきかえのようにおもいだしたことがあります。【5】というのは、その日が、
毎月買っているざっしの
売りだし日だったのです。
5. さっそく、ざっしを
買うお金をもらって、やく二キロメートルはなれている、小さな町の
本屋へでかけました。うめの花を
道みち見ましたが、
風はまだつめたかったようです。
6. 【6】そのころ、テレビなんてものはありませんでした。ラジオも、まだ町にしかありませんでしたから、
毎月のざっしが、なによりのたのしみでした。
7. ざっしを
買って
家にかえってくると、からだじゅうがほかほかしていました。【7】ときどき、グラビヤのところをのぞいてたちどまったり、
小走りにあるいたりしてきたのです。
8.
夕食まえに、ふろへはいるように
母にいわれましたが、「あとにする。」といって、まずざっしをよみつづけました。
9. 【8】ねるまえに、いちどカバンの中でも見ればしゅくだいをおもいだしたでしょうが、そのころのぼくは、本もどうぐも、みんなカバンにいれっぱなしで、学校と
家とをおうふくしていました。しゅくだいをわすれなければ、けっして、カバンの中のものをとりだすひつようがなかったのです。∵
10. 【9】さて、もんだいはそのあくる日です。こくごの
時間がはじまり、しゅくだいをしてきたノートを、つくえの上にひろげることになりました。
11. (あっ、そうだった。あの、いやなしゅくだいがあったっけ。)と気づいたが、もうなんともなりません。【0】せめて、はじまるまえにでも気づいていたら、すこしは
書いておけたのでしょうが。
12. たんにんのわかい女の先生は、かくべつきびしかったのです。(さあ、どうしよう。しかたがない。しょうじきにいおう。わすれました。)と。そうおもって、先生に見てもらうばんを、びくびくしてまっていました。
13.「はい、どこにやってありますか?」
14.「わすれました。ぼくう、すっかりわすれてしまいました。」
15.「わすれた? どうしてわすれたの? わすれたといえばすむの?なまけたのでしょう?」
16.「なまけたんじゃありません。」
17.「なまけたのでしょう。」と、いわれて、きゅうにくやしくなりました。
18.「なまけたんじゃなかったら、どうしてやってないの?」
19.「わすれたのです。」
20.「わすれたといえばすむの? どうしてわすれたの? ただわすれたではゆるしません。」
21. さあ、ぼくはこまってしまいました。ざっしのことでわすれたといえば、先生は、よけいおこるにちがいありません。(よし。
家の
用でやれなかったといおう。)と、とっさにおもいつきました。
22.「
家に
用があったのです。」
23.「どんな
用?」
24.「となり村の水車
小屋へ、
米を一ぴょうついてもらいにいったのです。」
25.「あんたひとりで?」
26.「はい。」
27. これは、とんでもないことをいってしまったなとおもいました。でも、そういってしまったいじょうは、それでとおさにゃならんとおもい、あることないこと、おもいつくままにならべました。
28.「ほらふきうそつきものがたり」(赤
座憲久)より
長文 1.4週
1. 日本の
主食は、お
米です。日本と
同じように、お
米を
主食とする
国は
多く、インド、
中国、
東南アジアの
諸国などがあります。お
米は、
粒のままで
食べる場合が
多く、水で
炊いて
ご飯にしたり、
多めの水で
炊いておかゆにしたり、
蒸しておこわにしたり、
蒸したあとついておもちにしたりするなど、さまざまな
食べ方があります。また、
炊いたお
米をいためてたべる
焼き飯や、いためてから
炊くピラフやパエリヤなどもよく
知られています。
2.
世界には、お
米以外の
主食もあります。
代表的なものは
小麦です。
小麦は、アメリカ、インドなどで
多く生産され、
食べ方は、
粉にしてから
食べることが
多く、ねって
焼いたり、めんにしてゆでる
方法がほとんどです。パンやスパゲッティは、
小麦から
作られます。
中国で
食べられている
饅頭も、ねった
小麦粉を
丸めて
蒸したものです。日本でおなじみの
肉まんも、
饅頭の
一種です。
3. トウモロコシは、
米、
小麦に
並んで、
世界三大
穀物の一つと
言われています。メキシコでは、トウモロコシの
粉で
作った
生地をうすくのばして
焼いたトルティーヤが
主食です。そのほか、トウモロコシを
粉がゆにしたり、
蒸したりして
食べます。
4.
世界には、それぞれの
国の
気候、
風土によっていろいろな
食べ物があります。
寒くて
作物を
栽培できない
北極近くに
住むイヌイットは、カリブーやアザラシの
肉を
主食としています。
昔のイヌイットはアザラシなどの
肉を生で
食べて、ビタミンCが足りなくなるのを
防いでいました。もっとも、
氷の上で
肉を
焼いて
食べていたら、
氷が
溶けて
海に
落ちてしまうという
理由もあったかもしれません。
5.
北極を
探検したヨーロッパ人たちは、
生肉を
食べるのをきらったために、
壊血病に
苦しめられました。
生肉を
受け付けないヨーロッパ人にとって、
壊血病の
問題は、なかなか
解決できませんでした。生の
肉を
食べるのは、
北極というきびしい
場所で生きのびていくためのイヌイットの
知恵だったのです。∵
6.
言葉の森
長文作成委員会(κ)
長文 2.1週
1. 【1】ぼくは、
毎日六
時からアニマックスでドラゴンボールを見ています。おもしろくてやめられません。その日も、ぼくはお
兄ちゃんと、いつもどおりドラゴンボールを見ていました。
悟空とピッコロ大
魔王が
対戦しています。手に
汗握る戦いです。ぼくたちは
夢中でした。
2. 【2】そこへ、
何かがこげたような
匂いが
漂ってきました。ぼくは、
今日の
晩御飯はきっと
魚だなと
思いました。でも、
魚にしては
臭過ぎるような気がします。
3.「なんか
変な
匂いがするぞ。」
4.と
言いながらふと
台所を見ると、ガスコンロからぼわっと火が出ているではありませんか。【3】ぼくたちは、
5.「お
母さあん。お
母さあん。
大変、
火事だよう。」
6.と、
大声で二
階にいる
お母さんを
呼びました。
お母さんは、
7.「やだあ、
魚焼いてるの
忘れてた!」
8.と
叫びながらドンドンドンと
階段を
転がるように
降りてきました。【4】ガスコンロから
燃え上がる火を見て
動かなくなった
お母さんは、
急に、
9.「
新聞。いらない
新聞持ってきて。たくさん。早く!」
10.と、ぼくたちに
言います。ぼくとお
兄ちゃんはぶつかりあいながら
新聞を
取りに
走りました。【5】
お母さんは、
11.「ありがと。」
12.と
言うと、
勢いよく水を出し
新聞をぬらしました。
13. メラメラと火が
燃えているのは、グリルという
魚を
焼くところと
奥にあるたくさん
穴の
並んだところです。
お母さんはまず、
奥の
穴の上に
濡れた
新聞紙を
並べました。【6】
次に、グリルを
引き出すと、火が大きく
噴き出してきました。ぼくたちはびっくりして
声も出ません。
お母さんはグリルの上に
濡れた
新聞紙を
乗せると、すぐにグリルを
閉めました。
少し火が小さくなったような気がします。∵【7】
お母さんはまた、グリルを出して
濡れた
新聞紙を
乗せました。ぼくたちは
お母さんの
後ろでじっと見ています。それを
何度か
繰り返すとだんだん火が
消えてきました。ぼくはほっとして、
14.「よかった。
火事になるかと
思ったよ。」
15.と
言いました。
16.【8】「
危なかったね。」
17.と
言うお
兄ちゃんの
顔は、まるでおばけ
屋敷から出てきたときのようでした。ぼくは、お
兄ちゃんも
怖かったんだなと
思いました。
18.
お母さんは、
19.「やったやった。
危なかったけどなんとかなるもんだね。こういうのを
火事場の
馬鹿力って
言うんだね。」
20.と
得意そうです。【9】
怖かったけど、スリル
満点でした。
騒ぎが
終わったときにはドラゴンボールも
終わっていました。ぼくたちが、
21.「あーあ、ドラゴンボール
見逃しちゃったよ。」
22.と
言うと、
お母さんは、
23.「まあ、いいじゃん。
火事にならなかったんだから。」
24.と
笑いました。【0】
25.(
言葉の森
長文作成委員会 ω)
長文 2.2週
1. 【1】ぼくは、べんとうをとりだそうとして、ごそごそと、カバンの中をさがしました。
2. そのころは、きゅうしょくはありませんでした。
3. みんな、アルミニュームのべんとうばこに、ごはんとおかずをつめて、もってきていたのです。
4. 【2】ところが、どんなにさがしても、べんとうばこはありませんでした。
5. わすれんぼうの名人だったぼくは、しゅくだいはもちろんのこといつだって、べんとうをわすれるくせがありました。
6. 【3】かあさんが、
毎朝つくってくれるのに、ぼくは、うっかりして、
台所のすみっこだのつくえの上だのに、一しゅう
間に、一かいや二かいは、かならずわすれました。
7. 【4】そんなとき、ぼくはうちまでかけていっては、かあさんたちに、
8.「また、べんとうがないてるずら。」
9.なんて、からかわれながら、つめたくなったごはんを、口の中へながしこむようにいそいでたべたものです。
10. だから、その日も、そうすればよかったのです。
11. 【5】ところが、その日は、となりの
源ちゃんが、あわてたぼくのようすを、じっと見つめて、そして、やさしい
声で、じしんありげに、そっと、ささやいたのです。
12.「そうか! のんちゃんわかったよ。おめんちは、お
米がないんだろ。【6】おらあ、おめえ、よくべんとうわすれるなあって、おもってたけど、そうじゃあなかったのか。そうだったのか。」
13. そういわれると、ぼくも、ほんとに、そんな気もちになってくるのでした。
14. 【7】だから、
源ちゃんの
同情したことばにはなんにもこたえないで、あわてていすにすわりなおし、しょんぼりと下をむいていました。
15. ちょうどそのとき、
前沢先生が、はいってきたのです。
16.【8】「おおい、きょうは、みんなと
会食するぞ。」
17.と、いわれてから、もじもじしているぼくに、気がついたのでしょう。
18.「
代田、どうした。」
19.と、たずねました。
20. ぼくはきゅうにかなしくなってきて、「ううっ。」と、しゃくりあげて、なきだしたのです。∵
21. 【9】すると、
源ちゃんが、
22.「先生、のんちゃんは、べんとうがないんです。」
23.と、べんかいしてくれたのでした。
24. 先生は、気にもしないで、
25.「ああ、そうか、わすれたのか。」
26.と、いってから、
教だんのつくえのほうにいこうとしました。【0】ところが、
源ちゃんは、
27.「先生、そうじゃあないんです。のんちゃんは、べんとうがもってこられないんです。」
28.と、おもわせぶっていったのです。
29. ぼくは、ぎょっとしました。
30. いや、ぼくよりも先生のほうが、もっとおどろいたようでした。
31.「そうかあ!」
32.と、しばらくたちどまって、かんがえているようでした。
33. それから、おもいだしたように、
34.「ああ、きょうはつごうで、
会食はやめだ。」
35.と、いわれてから、
36.「
代田、はなしがあるから、いっしょにこい。」
37.と、気のどくそうに、やさしい
声でぼくにはなしかけるのでした。
38. 先生は、ぼくを、ようむいん
室のとなりのたたみのへやに、つれていきました。
39. それから、りょう手で、ぼくのかたをかるくたたいてから、
40.「おまえ、ずーっと、おべんとうをたべていなかったのか?」
41.と、ききました。
42. ぼくは、みょうにみじめな気もちになってきました。
43.――はい――、というかわりに「こくり」と
頭をさげました。
44. すると、いよいよ
売られていったあわれな
東北の子どもにおもえてきました。
45. しゃっくり、しゃっくりをくりかえしながら、なきだしていました。
46.「ほらふきうそつきものがたり」『げんこつゴツン』(
代田昇)より
長文 2.3週
1. 【1】先生は、
2.「もういい、もういい。どうも、はじめてで、じじょうがわからなくて、気のどくをしたのう。さあ、そこにすわれ。」
3.といって、もうしわけなさそうに、ぼくを見つめるのでした。
4. 【2】それから、先生は、じぶんのべんとうをはんぶんずつにわけて、
5.「さあ、たべろ。なあにえんりょするな。
人間ちゅうもんはなあ、いいか、どんなにつらいことがあっても、けっしてへこたれるんじゃあねえぞ。」
6.と、やさしくいってくれるのでした。
7. 【3】そういわれれば、いわれるほど、ぼくは、
8.「ううっ!」
9.といって、しゃくりあげてなきました。
10. しゃくりあげながらも、先生から、もらったおべんとうをたべていました。
11. わけてくれたおかずのしおじゃけも、こうやどうふのにしめも、おいしくておいしくて、みんなたいらげました。
12. 【4】ところが、そのあたりから、ゆめがさめはじめたようでした。
13.――おまえは、うそをついて、先生のべんとうをたべたのだ。
14. どこからか、そんな
声がきこえます。
15.――いや、あれはゆめの中のぼくで、ほんとは
東北の
少年なんだ。
16. そんな、べんかいもきこえました。
17. 【5】しばらくすると、
18.――まあいいや、とにかく、こんどのあたらしい先生から、やさしい
声をかけてもらって、べんとうをわけてもらったのは、ぼくだけなんだから。
19.と、いばった
声もきこえました。
20.【6】――いや、おもいちがいをした
源ちゃんが、わるいのだ。
源ちゃんのくそぼうずめ。
21. こんどは、
源ちゃんのせいにした
声もでてきました。
22. とにかく、ぼくは、おもいあまってしまいました。∵
23. 【7】そのおもいあまった気もちは、うちにかえってからも、つづいていました。
24. つぎの日になりました。
25. 先生にあうのが、こわくなりました。
26.――いっそ、ずる休みするか。
27.と、おもいました。
28. でも、ぼくのうちは、かんしがきびしくて、とてもだめです。
29.【8】――ええ! どうにでもなれ。
30. ぼくははんぶんやけっぱちになって、しぶしぶと学校にいったのです。
31. やっぱり、おもっていたとおりでした。
32. ぼくは、一
時間めに、しょくいん
室によびつけられました。
33. 【9】いがぐり
頭のぎょろめの
前沢先生は、ぼくを、にらみつけて、
34.「
代田! よくも、おれをだましたな。」
35. そういうなり、げんこつで、
36.「ゴツン」「ゴツン」
37.と、ぼくののうてんを、力いっぱいなぐりました。
38.「いたたっ!」「いたたっ!」
39. 【0】目から火のでるほどのいたみが、ずしんと、からだぜんたいにひびいてきました。
40. でも、ぼくは、
声をだしませんでした。
41. もちろん、なきもしませんでした。
42. いや、かえって、この「げんこつ」で、むねの中のもやもやが、すうっと、きえていくのがわかりました。
43.「ほらふきうそつきものがたり」『げんこつゴツン』(
代田昇)より
長文 2.4週
1. シマウマの
体の
模様は、まるで
横断歩道のようです。
横断歩道の
模様はとても目立つので、シマウマの白と
黒の
模様も、
草原の中で目立ってしまい、
肉食獣に
簡単に見つかってしまうのではないかと
思うかもしれません。しかし、そんなことはありません。
2. アフリカの
日差しは
強烈です。
昼間、
太陽がぎらぎらと
照りつけて
大地が
熱くなると、かげろうが立ちのぼります。シマウマの
住んでいるサバンナ
地帯は、
広くなだらかな
丘のところどころに、
背の
低い木の
茂みや、
背丈の
高い草むらがあります。ゆらゆらするかげろうの中で、シマウマの
姿はちょうど木や草にまぎれて、見えにくくなります。あのシマ
模様は、ライオンやハイエナの
嗅覚がとどかないところにいるかぎり、
身を
守るのにとても
都合がよいのです。このように、
身体を見えにくくさせる
色のことを、
保護色と
呼びます。
3. シマウマが、なぜ
横断歩道のような
模様をしているかについて、もう一つ
説があります。それは、サシバエ(
刺しバエ)から
身を
守るためという
説です。アフリカには、ツェツェバエという大きなハエがいて、アブのように人や
動物を
刺します。ツェツェバエという
名前は、ボツワナの
言葉で「
牛を
倒してしまうハエ」という
意味です。ハエにとっては、
栄えある
名前かもしれません。
人間がこのハエに
刺されると、
体の中に
病原体が入って、ときには
命を
落とすこともあります。
4. ツェツェバエの目から見ると、シマウマのシマ
模様は見えにくいらしく、シマウマのまわりにたかるハエは、ほかの
動物と
比べてぐんと
少ないのです。
5. ところで、シマウマのしま
模様は、一
頭ずつすべて
異なっています。
人間の
指紋には一つも
同じものがありませんが、シマウマの
模様もちょうどそれと
似ています。
私たち
人間から見ると、どれも
同じように見える
模様ですが、一つとして
同じものがありません。∵
6. さて、しまのつく
動物は、ほかにもいます。シマリス、シマダイ、シマヘビ、
島田君。それは
人間です。
7.
言葉の森
長文作成委員会(κ)
長文 3.1週
1.【1】「あ、
宿題忘れてた。」
2.学校に
着いて、
教室に入ったぼくは、
宿題を
忘れたことに気がつきました。
昨日は三
丁目公園に
遊びに
行って
遅くまで
鬼ごっこをしました。三月になってからずいぶん日が
延びたので六
時まで
遊んでいいことになりました。【2】
家に
帰ったらやろうと
思っていたのに、すっかり
忘れてしまったのです。
3. 先生が
来る
前に
終わらせてしまおうと
大急ぎでランドセルから
宿題のプリントを出しました。ぼくがプリントをやろうとすると、
4.「中田
君。もしかしたら、それ、
宿題?」
5.と、ダイちゃんが、小林先生の
真似をしてやってきました。【3】小林先生というのは、ぼくたちの
担任の先生です。まるで
お笑い芸人みたいな
面白い先生です。
6. ダイちゃんが先生の
真似をしたので、
周りにいたみんながげらげら
笑いました。ぼくたちは
調子に
乗って
次々と先生の
真似をしました。【4】
突然、ゆきちゃんが、
7.「三年生になったら、どの先生が
担任になるのかな。」
8.と
言いました。ぼくは、いすから
滑り落ちそうになりました。
9.「小林先生じゃないの?」
10.と、
思わず叫んでしまいました。【5】みんなは、ちょっとあきれた
顔で、
11.「
知らないの? 三年になったら先生
変わるって、
お母さんが
言ってたよ。」
12.と、口々に
言いました。ぼくは
全然知りませんでした。
考えたこともありませんでした。ずっと先生と
一緒のような
気持ちでいたのです。
13. 【6】先生の
机の
後ろに
貼ってあるポケモンカレンダーを見ました。
春休みまであと
何日あるのか
知りたくて、ぼくは
数え始めました。∵
14.「一、ニ、三、四、五、六、七、八、九、十。あと十
回!」
15.あと十
回学校に
来たら小林先生とお
別れなのだと
思うと、
急に
寂しくなってきました。【7】どうして
大事なことを
言ってくれないのかと
お母さんに
文句を
言いたくなってきました。
今日の
夜、
絶対に
言ってやるぞと
思いました。
16. ぼくがテレビを見ていると、
買い物袋をぶら下げた
お母さんが
仕事から
帰ってきました。
17.【8】「もう
春だね。まだ
明るいもんね。
春になると、なんだかうきうきしちゃうね。」
18.なんて
嬉しそうに
言います。ぼくは
お母さんの
顔を見ないで、
19.「三年になったら小林先生じゃなくなるんだって。」
20.と
不機嫌そうに
言いました。【9】
お母さんは
買い物袋を
置いてぼくの
横に
座りました。
21.「そうだね。
お母さんも小林先生のファンだったから
寂しいよ。ずっと小林先生だったらいいのにね。でも、そんないじけた
顔をしていると、小林先生も
元気がなくなっちゃうよ。」
22.と
言って、ぼくの
背中をぽんとたたきました。【0】小林先生は
楽しいことが
大好きです。
寂しいけれど、
最後まで
元気な
顔でいようとぼくは
思いました。
23.(
言葉の森
長文作成委員会 ω)
長文 3.2週
1. 【1】ふと気がついたとき、しっかりと、手にもってきたふろしきづつみが、ぬれているのです。くすりをつつんできた、あのふろしきづつみです。
2. はっとして、
雪の
道にうずくまると、つつみをといてみました。【2】水ぐすりがこぼれて、三
分の一ぐらいへっているのです。こなぐすりのふくろは、べったりとぬれて、
茶いろのしみをつくっていました。コルクのせんが、ゆるんでいたのです。ほてっていたからだじゅうのあせが、つめたくなるほど、びっくりしました。
3. 【3】そのくすり
代がいくらだったか、いまはおもいだせませんが、わがやのくらしの中で、それは、たいへんなお金だったことだけは、たしかです。けんこうほけんなどはなかった、ずっとむかしのはなしです。
4. どうしたら、よかっぺか――
5. 【4】わたしは、
雪の上に、べったりと、すわりこんでしまいました。
6. このまま
家へかえったら、
母がどんなにがっかりするか……、うんとしかられることは、わかりきっています。もう一どもどってくすりをもらうには、お金がありません。【5】五年生だったわたしには、どうしたらいいのか、わかりませんでした。
7. そのとき、小さな水の音がきこえてきました。
道ばたの石がきのあいだから、ちょろちょろとながれでている、わき水の音です。学校のいきかえりに、きまってのんでいく水でした。【6】だれがもってくるのか、みじかい青竹が、かけひのようにさしこんでありました。青竹は、ときどきだれかにひきぬかれます。すると、フキの
葉っぱをまるめて、さしこんであることもありました。
8. わき水は、
夏の日のように、ふきだしてはおりません。【7】雨だれのように、ぽつん、ぽつんと、そこだけ、
雪をとかしておちていました。
9. わたしは、おもわず、まえとうしろを見まわしました。ひとっこひとり、あらわれません。たちあがると、そのかけひの下に、くすりびんを、あてがっていたのです。∵
10. 【8】びんの中のくすりは、
うす茶いろになりましたが、三日
分のその目もりまで、いっぱいになりました。
11. しっかりせんをすると、びんだけをふろしきにつつみなおし、こなぐすりのふくろは、ふところのはだのところまで、じかにいれました。【9】からだのぬくもりで、すこしでもかわかそうとしたのです。
12. そして、のろのろ、あるきだしました。あるきながら、うそのいいわけを、いっしょうけんめいかんがえていました。
13.「いってきたよ。」
14. わたしは
元気のない
声で、そうあいさつしながら、おもい
大戸をあけました。
15. 【0】いろりには、火がもえていて、けだるそうな
顔をして、
母はおきていました。
16. わたしは、だまって、あがりはなにこしをおろすと、
母のほうにせなかをむけたまま、ゆっくりと、
長ぐつをぬぎました。そのようすが、ふだんとはちがうことに、
母は気づいたのでしょう。
17.「どうかしたんか?
頭でもいてえだか? くすりは、もらえたんか?」
18.と、やつぎばやに、ききました。
19.「もらってきたけえど……。いしゃどんからでたとこの水ったまりへおとしちまって……。」
20. わたしは、ふところからぬれたこなぐすりをだすと、いろりばたからはとおい、あがりはなのいたのまに、ひざをついてなきだしたのです。
21.
道みち、かんがえてきたうそのいいわけを、とうとういってしまったじぶんが、こわくなっていたのかもしれません。
22.「ぬれたぐれえ、かわかせばすむこった。あっち(
心配)はねえ。こんだっから、気いつけるだよ。」
23. ないているわたしが、かわいそうだったのか、
母は、やさしくそういっただけで、ぬれたくすりぶくろを、かわかすように、いろりのすみにおきました。
24.
色のうすくなった水ぐすりは、いつもいれておく
戸だなへ、じぶんでそっとしまいました。∵
25. さむいけれど、
母とむきあって、いろりの火にあたるのは、つらかったので、
26.「おひるごろっから、
頭がいたくってー。」
27. そういって、こたつの中へもぐりこみました。
28.「かぜっけなだっぺあ、かぜにこたつはどくだぜ、ちゃんとふとんにねて、ひとあせかいたがいい。」
29. むりやり、ふとんにねかされたのでした。
30. 目をつぶると、
31.(くすりって、なんの水でつくるのだんべえか。くすりの中へ、ただの水をたしてしまって、どくにはならなかっぺえか――。)
32. と、つぎつぎ、またしんぱいになりました。
33.「ほらふきうそつきものがたり」『かけひの水』(
宮川ひろ)より
長文 3.3週
1. 【1】ふいに、わたしは、かたのあたりをうしろからぐいとおされて、ころびそうになりました。ふりむくと、
2.「おい、じゃまだぞ。どけよ。」
3. そばに、グローブをつけたのっぽの男の子が、わたしを見おろしてたっていました。【2】しらないまにわたしは、やきゅうのコースのまんなかにたっていたのです。はっと気がつくのといっしょに、
4.「さっさといけよ。のろまのあんぽんたん。」
5.「どかないと、ぶんなぐるぞ。」
6.
東京べんのわる口が、ポンポンいりみだれて、わたしの耳にとびこんできました。【3】ぶんなぐるなどといわれたのは、うまれてはじめてです。それに、あるけっていったって、どっちへいけばいいのかわかりません。わたしは、
頭がかっとなって、からだをかたくしてつったったまま、なきそうになりました。【4】そのとき、
7.「どうしたの、キミちゃん。」
8. よかった、としえちゃんでした。かけとおしてきたのか、まだ、ふうふういっていました。わたしは、ほっとして、どもりながら、
9.「あの、あのう、あの人たち、たたくって。じゃまだって、ここにいると……。」
10. 【5】じぶんでなにをいったのか、きれぎれにそれだけいうと、きゅうにかなしくなって、ポロポロ、なみだがでてきました。
11.「どの子が? ああわかった、けんちゃんでしょ。おかあさーん、けんちゃんがね、キミちゃんをぶったんだって。」
12. 【6】わざとそういったのか、かんちがいしたのか、としえちゃんは、うちのほうへむかって、
大声でさけんだのです。
元気なおばさんのことだから、その
声をきいたら、ひばしかほうきをもって、すっとんでくるかもしれません。【7】わたしは、あわてて、ちがうって、せつめいしようとしましたが、なきながらだし、それに、
東京べんでいおうとするので、ことばがうまくいえません。
13. 【8】いっしゅん、男の子たちは、おどろいたように、ポカンとつったっていましたが、けんちゃんとよばれた、いちばん気のよわそうな子が、なきそうな
声をふりしぼって、
14.「ぶちゃしないよォ、いなかっぺの、うそつきィ。」
15.と、ありったけの
声でさけぶと、くるりとうしろをむき、ワーッとなきながら、いちもくさんにおかをかけおりていきました。∵【9】ほかの子も、くもの子をちらすように、にげさっていきました。
16. 夕やけはいつのまにかきえて、はださむい夕やみがおかの上にもただよいはじめていました。
17.【0】「さ、いきましょ。」
18.と、としえちゃんは、ねえさんぶって、わたしのかたに手をまわしあるきだしました。
19. 「いなかっぺの、うそつき」――そのときになって、はじめて、このことばのいみが、おもく、わたしにのしかかってきました。
20. うそつきは、どろぼうのはじまり。うそをいうと、
死んでから、えんまさまにしたをぬかれるって、いつもかあさんがいう。わたしは、
東京の子に、みんなのまえでうそつきといわれた。しらない
土地で、しらない子が、「いなかっぺの、うそつき」と、はっきりそういった。それも、あんなにくやしがって、なきながら。――「いなかっぺ」って、そんなにわるいものなのかしら、それに、わたしは、ほんとに「うそつき」なのだろうか。このことは、かあさんと
秋田の
家へかえってからも、
頭からきえませんでした。
21. とおいとおいむかしの小さな小さなできごとです。けんちゃんとよばれたあの子も、いまはおじいちゃんになって、どこかでまごとあそんでいるかもしれません。それとも、日本じゅうのわかものたちが、せんそうにつれていかれた、あのころ、
中国か、マレーおきの
海で、みじかいいのちをちらしてしまったのかもしれません。
22.
戸山が
原も、いまは学校やビルがたちならび、ひろいどうろができ、すっかりかわってしまいました。あのあたりの町のようすも、どこがどうなったのか、おもいだすこともできません。あそんでいる子どもたちも、みんな、しらない
顔ばかりです。
23. それなのに、あの
東京のうら町の、小さいおかから見た、夕ぐれどきのものがなしいけしきと、小さなわたしの目の中でピンクいろにふくらんでいった大きななみだと、あの
東京の男の子のかなしそうな
声だけが、カラーテレビのように、いまもはっきりと、わたしの目に、耳に、のこっているのです。
24.「ほらふきうそつきものがたり」『いなかっぺのうそつき』(
増村王子)より
長文 3.4週
1. 【1】
夏休みの
友といえばやはりカブトムシです。
昆虫の
王様と
呼ぶにふさわしいその
姿は、子どもたちの
視線をとらえてはなしません。ペットショップのカブトムシコーナーは、
毎年黒山の人だかりができていますし、
採集ツアーも
登場するほどです。
2. 【2】いかにも
丈夫そうな
姿のカブトムシですが、その
命はそれほど
長いものではありません。
卵からかえり、
冬を
越した
幼虫は、
蛹へと
姿を
変え、
夏になると
成虫、つまりカブトムシへと
変身しますが、
成虫になってからの
命はおよそ一か月ほどといわれています。【3】ですから、
夏休みが
終わるころは、ちょうどカブトムシの
命もつきる
時期にあたるのです。クワガタムシも、カブトムシと
並んで人気があります。カブトムシがひと
夏の
命なの
に対して、クワガタムシの
場合、
種類によっては
越冬できるものもあります。えっとうれしくなってしまうでしょう。
3. 【4】
大切に
育てていたカブトムシの
死は
悲しいものですが、
死んでしまったからといってすぐに
飼育ケースを
処分してはいけません。ケースの中の
腐葉土をそっとのぞいてみましょう。もしかしたら、小さな
卵が見つかるかもしれません。【5】
直径三ミリ
程度の白くて
丸い卵です。
孵化直前の
卵は大きさは五ミリ
程度になり、
色も
黄色味を
帯びてきます。この
卵をじょうずに
育てることができたら、
大切にしていたカブトムシの
二世と
対面できる日がやってくるのです。
4. 【6】
卵からかえった
幼虫は、おもに
腐葉土を
食べて大きくなります。
幼虫時代に
摂取した
栄養が、
成虫のカブトムシの大きさを
決定付けます。いったん
成虫になってしまったら、どんなに
樹液を
吸ったところでそれ
以上大きくはなりません。【7】
立派な大きさのカブトムシは、
幼虫時代に
十分な
栄養を
取っていたのです。もしも
人間がカブトムシと
同じ性質だったらどうでしょう。
成人したらいくら
食べても
太らないわけですから、ダイエットに
励んでいる大人にとってはなんともうらやましい
話です。∵
5. 【8】
通常、一
匹の
幼虫が
蛹になるまでに
食べる腐葉土の
量は、
洗面器に
山盛り一杯分にもなるそうです。カブトムシは、そんな
大量の
腐葉土をかぶっとむしゃむしゃ
食べてしまうのです。さすがに
昆虫の
王者、
驚いてしまいます。
6. 【9】
友達に
自慢できるくらいの大きなカブトムシを
育てるためには、
良質な
腐葉土を
絶えず補充してあげることが
大切です。また、
飼育ケースの中のフンを
取り除いたり、
掃除をしたり、
根気よく
世話を
続けることが
必要です。
7. 【0】では、カブトムシとクワガタムシでは、どちらが
強いでしょうか。カブトムシの
得意技は、カブト
割りでしょう。クワガタムシの
得意技は、もちろんクワ
固めです。
結果は、カブトもクワガタも、
お互いをムシして
引き分けになりました。
8.
言葉の森
長文作成委員会(ω)