a 長文 1.1週 ke
 今日きょう、ぼくは、ムサシのいえ遊びあそ 行きい ました。ぼくとムサシは大の仲良しなかよ で、学校でもよく遊んあそ でいます。ムサシのいえで、ポケモンのゲームの攻略こうりゃく本を読みよ ました。難しくむずか  てよくわからないところもあったけれど、ムサシが説明せつめいしてくれました。 
「なんだ、こんなふうにやればいいのか。」 
ぼくは大発見だいはっけんをしたかのように、興奮こうふんしてきました。すぐにでもいえ帰っかえ てDSをやりたくなってきました。 
「おれ、今日きょう帰るかえ ね。バイバイ。」 
と、ムサシにさよならしていえ走りはし ました。まるで獲物えもの狙うねら 動物どうぶつのように全速力ぜんそくりょく走りはし ました。いえ帰るかえ 早速さっそく、 
「ねえ、お母さん かあ  、ゲームやってもいい?」 
と、お母さん かあ  をそっと見ながら言いい ました。お母さん かあ  少しすこ 考えかんが てから、
「うーん、じゃあ、三十ぷんだけね。」 
言いい ました。 
「やった。ありがとう。絶対ぜったい三十ぷんめるね。」 
言いい ながら時計とけい確認かくにんして、DSの電源でんげんを入れました。ピコーンピコーンピコーンといい音がしました。わくわくします。ぼくは、さっき覚えおぼ てきたやり方  かた片っ端かた ぱしから試しため てみました。 
「ええっ、なんだ、これでいいのか。」 
「これなら簡単かんたん。」 
など、ぼくは大騒ぎおおさわ です。ひとりでゲームをしているのに、まるで友達ともだちといっしょにやっているようにしゃべりました。いままでクリアできなかったことが、簡単かんたんにできてしまいます。楽しくたの  てたまりません。ぼくはもう夢中むちゅうです。時計とけいを見ることさえ忘れわす ていました。
 ふと気がついて時計とけいを見ると、残りのこ 時間じかんはあと五ふんです。もっと続けつづ ていたいけれど、約束やくそく守らまも なくてはいけません。約束やくそく時間じかん
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守れまも なくて一週間しゅうかんゲーム禁止きんしになったことがなんかあるからです。ゲーム禁止きんしなんて二度とにど ごめんです。ぼくは、ちょうど一ぷんまえ電源でんげん切りき ました。ギリギリセーフでした。 
お母さん かあ  、いまやめたよ。ちゃんと三十ぷんでやめたよ。」 
ぼくは得意とくいそうに言いい ました。お母さん かあ  は、 
約束やくそく守れまも 偉かっえら  たね。今日きょう盛り上がっも あ  てたね。」 
とにっこりしました。 
「うん。今日きょうはすごく進んすす だ。ムサシにやり方  かた教えおし てもらったからね。」 
と、ぼくが今日きょうのことを説明せつめいしました。お母さん かあ  は、
今日きょうみたいに約束やくそく守れるまも  と、お母さん かあ  気持ちよくきも   ゲームをやっていいって言えるい  よ。つぎ守ろまも うね。」 
言いい ました。ぼくも、ほんとうにそのとおりだと思いおも ました。

言葉ことばの森長文ちょうぶん作成さくせい委員いいんかい ω)
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長文 1.1週 keのつづき
 オリンピックのメダルが一から順にじゅん 金、ぎんどうでできているように、金は大昔おおむかしから、とても人気のある金属きんぞくでした。なにしろ薬品やくひんにおかされず、やわらかくてコインやアクセサリーにも加工かこうしやすく、そして何より美しかっうつく   たからです。しかし、金は、一トンの金鉱きんこう石の中から、わずか三グラムから五グラムくらいしか取れと ないという貴重きちょうなものです。
 今から八百年くらいむかし、ヨーロッパの人々は、珍しいめずら  食べ物た もの宝物たからもの求めもと て、まだ知られていない海の向こうむ  の国々へと出かけていきました。その中の一人、マルコ・ポーロは、たび途中とちゅうで見聞きしたことを集めあつ 、のちに『東方見聞録とうほうけんぶんろく』という本を出しました。その中で、東洋とうようには「ジパング」という名前の「黄金おうごんの国」がある、と書きました。
 この「ジパング」というのは、実はじつ 日本のことで、日本の英語えいご名である「ジャパン」はこれに由来ゆらいしています。マルコ・ポーロ自身じしんは、実際じっさいに日本を訪れおとず たことはなく、中国で聞いた話として書いただけでした。しかし、この本に「ジパングにはものすごいりょう黄金おうごんがあり、国王の宮殿きゅうでんはすべて金でできている」と書かれていたため、コロンブスも、この黄金おうごんの国を求めもと て船出したのではないかと言われています。
 ヨーロッパの人が夢見ゆめみた「黄金おうごんの国」ほどではありませんが、日本にはかつて佐渡さど鴻之舞こうのまいなど、とてもりっぱな金鉱山こうざんがあり、貴重きちょうな金がたくさんとれていました。しかし、これらの鉱山こうざんもやがて掘りほ 尽くさつ  れ、今ではそれほどたくさんの金をとることはできません。
 そこで、最近さいきん注目ちゅうもくされているのが、「都市とし鉱山こうざん」と言われるものです。実はじつ 、パソコンや携帯けいたい電話、液晶えきしょうテレビなどの中には、「レアメタル」と呼ばよ れる貴重きちょう金属きんぞくが、少量しょうりょうずつですが使わつか れています。その中にはもちろん、金もあります。ですか
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ら、これらの機械きかいをうまくリサイクルして、その中の金属きんぞく取り出しと だ 使おつか う、という試みこころ 始まっはじ  ています。家電製品せいひんなどがたくさん使わつか れている日本には、世界せかい有数ゆうすう都市とし鉱山こうざんがあると言われています。
 今もむかしも、大人気の金。リサイクルを進めすす て、日本は再びふたた 、「黄金おうごんの国」になれるでしょうか。

 言葉ことばの森ちょう作成さくせい委員いいん会 τ
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a 長文 1.2週 ke
 そうじをおわって、わたしがかえろうとすると、運動うんどうじょうから、バラバラと男の子たちがやってきて、わたしをとりかこみました。
 (こりゃ、ひとあばれけんかをしなけりゃならなくなったぞ。)わたしはそう思いおも ました。でも、けっして、その男の子たちがにくらしかったわけではありません。ほんとうは、はやく、その子たちといっしょになってあそびたかったのです。めいわくだったのは、むしろしんせつにしてくれる女の子でした。
 (あの子がこなければよいが。)みんなにかこまれて、わたしがそうおもったとき、もう女の子は見つけて、こちらにかけてくるのがわかりました。
 と、わたしは、いちばんちかくにいた男の子を、ポカンとぶっていました。それから、とっくみあいになりました。ほかの男の子たちは、わたしの先手に、いささかあきれたかっこうです。
 女の子は、それを見ると、わたしがさきに手をだしたこともしらずに、先生をよびにいきました。とっくみあいになると、なかなかしょうぶがつきません。
「おい、先生がきたぞ。」
 だれかがいいました。そして、ほかの男の子たちが、学校のそとへにげだしました。わたしも、とっくみあいをちゅうしして、みんなといっしょに、にげました。
 わたしは、ごくしぜんにみんなといっしょににげだせたのがうれしくてたまりませんでした。わたしたちは、学校が見えなくなるまで、フーフーいいながら走りはし ました。そして、ひとりが草の中へ、
「ああ、しんど。」
とたおれこむと、みんなも草の中へころがりました。わたしは、いまさっきけんかをしたこともわすれていました。ところが、あいてはわすれていなかったのです。とつぜん、おかしなことをいいだしました。
「おまえ、へびつかめるか。」
「つかめらい。」
 わたしは、そうこたえずにはいられませんでした。それに、へびなど、そうかんたんにいるものとはおもっていませんでした。
大阪おおさか天王寺てんのうじ動物どうぶつえんには、こんなふといへびがいるぞ。おら、そいつにさわらせてもらった。ぬるっとして、手がぬれたぞ。」
 なぜ、じぶんのいちばんおそれていることを、わたしはわざわざしゃべってしまったのでしょう。もちろん動物どうぶつえんで、にしきへびに
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さわれるわけがありません。へびがぬるっとしていて、手がぬれるなんて、まったくでたらめです。いいえ、わたしはそんなゆめを見て、いくうなされたかしれません。
 ところが、あいての男の子は、そのとき、まったく手じなのように、草むらの中から、へびをみつけだしたのです。しっぽをつかむがはやいか、バン、バンと、土の上にたたきつけました。小さなしまへびではありましたが、わたしはもうぶるぶるとふるえていました。
「さあ、つかめ。もうかみつきよらん。」
 みんなは、わたしがどうするか見まもっていました。
「はよう、つかまんか。こわいのか。」
 わたしはだまってつかみました。つかむとどうじに、それをぶんぶんふりまわしました。とても、じっとなどつかんでいられませんでした。へびは、すこしもぬるっとなんかしていませんでした。むしろざらっとしたかんじです。これはほんとうにいがいでした。
 わたしはへびをふりまわしながら、みんなにちかづけました。さすがにみんなにげました。ふと気がつくと、むこうのほうから、さっき学校でいっしょにそうじをしていた、女の子たちがふたりでかえってきます。わたしはへびをふりまわしながら、その子たちのほうへ走りはし ました。
 女の子は、わたしがそんなことをしているのを見ると、ハッとしたようにたちどまってから、それがへびであることがわかると、キャッとさけんで、にげだしました。
 なんでそんならんぼうをしたのか、じぶんでもふしぎでした。
 あくるあさ、先生からたいへんおめだまをいただきました。
「なにもわるいことをしないへびをころして、おまけに、女の子をいじめるなんて、いちばんひきょうもののすることだぞ。」
 先生にそういってしかられました。つくえをならべた女の子は、わたしをよけるように、つくえのはしっぽにすわり、口もきいてくれなくなりました。
 へびをつかむなんて、ほんとうにつまらぬことです。でたらめのうそをいったばかりに、じぶんのいちばんきらいだったへびをつかんでみせなければなりませんでした。
 でも、そんなことがあってから、わたしは、すぐ山の友だちとも  となかよしになりました。へびもこわくなくなりました。二年ほどしかいませんでしたが、たのしい山の小学校でした。

「ほらふきうそつきものがたり」(今西いまにし祐行)より
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a 長文 1.3週 ke
 小学校一年生の三がっきのことです。こくごのべんきょうで、かん字が、十二、三字出そろい、それらを、三十かいずつ、ノートに書くか しゅくだいがでました。をかくとか、作文さくぶん書くか というのなら、そんなにいやではなかったのですが、わかりきった字をなんかいも書いか たり、たしざんやひきざんのけいさんもんだいを、たくさんやらされるしゅくだいは、とてもにがてでした。
 (三十かいずつか。いやだなあ。日、日、日……。人、人、人……。山、山、山……。ああ、いやだなあ。わかっている字じゃないか。いやだなあ……。)とおもっているうちは、まだいやいやでもいえにかえったら書こか うとおもっていました。
 ところが、学校のもんをでて、山のすそをとおり、小川のばしをわたっていえについたころには、すっかりわすれてしまいました。
 しゅくだいをわすれるのと、ひきかえのようにおもいだしたことがあります。というのは、その日が、毎月まいつき買っか ているざっしの売りう だし日だったのです。
 さっそく、ざっしを買うか お金をもらって、やく二キロメートルはなれている、小さな町の本屋ほんやへでかけました。うめの花をみちみち見ましたが、かぜはまだつめたかったようです。
 そのころ、テレビなんてものはありませんでした。ラジオも、まだ町にしかありませんでしたから、毎月まいつきのざっしが、なによりのたのしみでした。
 ざっしを買っか いえにかえってくると、からだじゅうがほかほかしていました。ときどき、グラビヤのところをのぞいてたちどまったり、小走りこばし にあるいたりしてきたのです。
 夕食ゆうしょくまえに、ふろへはいるようにははにいわれましたが、「あとにする。」といって、まずざっしをよみつづけました。
 ねるまえに、いちどカバンの中でも見ればしゅくだいをおもいだしたでしょうが、そのころのぼくは、本もどうぐも、みんなカバンにいれっぱなしで、学校といえとをおうふくしていました。しゅくだいをわすれなければ、けっして、カバンの中のものをとりだすひつようがなかったのです。
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 さて、もんだいはそのあくる日です。こくごの時間じかんがはじまり、しゅくだいをしてきたノートを、つくえの上にひろげることになりました。
 (あっ、そうだった。あの、いやなしゅくだいがあったっけ。)と気づいたが、もうなんともなりません。せめて、はじまるまえにでも気づいていたら、すこしは書いか ておけたのでしょうが。
 たんにんのわかい女の先生は、かくべつきびしかったのです。(さあ、どうしよう。しかたがない。しょうじきにいおう。わすれました。)と。そうおもって、先生に見てもらうばんを、びくびくしてまっていました。
「はい、どこにやってありますか?」
「わすれました。ぼくう、すっかりわすれてしまいました。」
「わすれた? どうしてわすれたの? わすれたといえばすむの?なまけたのでしょう?」
「なまけたんじゃありません。」
「なまけたのでしょう。」と、いわれて、きゅうにくやしくなりました。
「なまけたんじゃなかったら、どうしてやってないの?」
「わすれたのです。」
「わすれたといえばすむの? どうしてわすれたの? ただわすれたではゆるしません。」
 さあ、ぼくはこまってしまいました。ざっしのことでわすれたといえば、先生は、よけいおこるにちがいありません。(よし。いえようでやれなかったといおう。)と、とっさにおもいつきました。
いえようがあったのです。」
「どんなよう?」
「となり村の水車小屋こやへ、べいを一ぴょうついてもらいにいったのです。」
「あんたひとりで?」
「はい。」
 これは、とんでもないことをいってしまったなとおもいました。でも、そういってしまったいじょうは、それでとおさにゃならんとおもい、あることないこと、おもいつくままにならべました。
「ほらふきうそつきものがたり」(赤憲久)より
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a 長文 1.4週 ke
 日本の主食しゅしょくは、おこめです。日本と同じおな ように、おこめ主食しゅしょくとするくに多くおお 、インド、中国ちゅうごく東南アジアとうなん   諸国しょこくなどがあります。おこめは、つぶのままで食べるた  場合ばあい多くおお 、水で炊いた ご飯 はんにしたり、多めおお の水で炊いた ておかゆにしたり、蒸しむ ておこわにしたり、蒸しむ たあとついておもちにしたりするなど、さまざまな食べた かたがあります。また、炊いた たおこめをいためてたべる焼き飯や めしや、いためてから炊くた ピラフやパエリヤなどもよく知らし れています。
 世界せかいには、おこめ以外いがい主食しゅしょくもあります。代表だいひょうてきなものは小麦こむぎです。小麦こむぎは、アメリカ、インドなどで多くおお 生産せいさんされ、食べた かたは、こなにしてから食べるた  ことが多くおお 、ねって焼いや たり、めんにしてゆでる方法ほうほうがほとんどです。パンやスパゲッティは、小麦こむぎから作らつく れます。中国ちゅうごく食べた られている饅頭まんとうも、ねった小麦粉こむぎこ丸めまる 蒸しむ たものです。日本でおなじみの肉まんにく  も、饅頭まんとう一種いっしゅです。
 トウモロコシは、こめ小麦こむぎ並んなら で、世界せかい三大穀物こくもつの一つと言わい れています。メキシコでは、トウモロコシのこな作っつく 生地きじをうすくのばして焼いや たトルティーヤが主食しゅしょくです。そのほか、トウモロコシをこながゆにしたり、蒸しむ たりして食べた ます。
 世界せかいには、それぞれのくに気候きこう風土ふうどによっていろいろな食べ物た ものがあります。寒くさむ 作物さくもつ栽培さいばいできない北極ほっきょく近くちか 住むす イヌイットは、カリブーやアザラシのにく主食しゅしょくとしています。むかしのイヌイットはアザラシなどのにくを生で食べた て、ビタミンCが足りなくなるのを防いふせ でいました。もっとも、こおりの上でにく焼いや 食べた ていたら、こおり溶けと うみ落ちお てしまうという理由りゆうもあったかもしれません。
 北極ほっきょく探検たんけんしたヨーロッパ人たちは、生肉なまにく食べるた  のをきらったために、壊血病かいけつびょう苦しめくる  られました。生肉なまにく受け付けう つ ないヨーロッパ人にとって、壊血病かいけつびょう問題もんだいは、なかなか解決かいけつできませんでした。生のにく食べるた  のは、北極ほっきょくというきびしい場所ばしょで生きのびていくためのイヌイットの知恵ちえだったのです。
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 言葉ことばの森長文ちょうぶん作成さくせい委員いいんかい(κ)
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a 長文 2.1週 ke
 ぼくは、毎日まいにちからアニマックスでドラゴンボールを見ています。おもしろくてやめられません。その日も、ぼくはお兄ちゃんにい   と、いつもどおりドラゴンボールを見ていました。悟空ごくうとピッコロ大魔王まおう対戦たいせんしています。手にあせ握るにぎ 戦いたたか です。ぼくたちは夢中むちゅうでした。
 そこへ、なにかがこげたような匂いにお 漂っただよ てきました。ぼくは、今日きょうばん御飯ごはんはきっとさかなだなと思いおも ました。でも、さかなにしてはくさ過ぎるす  ような気がします。
「なんかへん匂いにお がするぞ。」
言いい ながらふと台所だいどころを見ると、ガスコンロからぼわっと火が出ているではありませんか。ぼくたちは、
「おかあさあん。おかあさあん。大変たいへん火事かじだよう。」
と、大声おおごえで二かいにいるお母さん かあ  呼びよ ました。お母さん かあ  は、
「やだあ、さかな焼いや てるの忘れわす てた!」
叫びさけ ながらドンドンドンと階段かいだん転がるころ  ように降りお てきました。ガスコンロから燃え上がるも あ  火を見て動かうご なくなったお母さん かあ  は、きゅうに、
新聞しんぶん。いらない新聞しんぶん持っも てきて。たくさん。早く!」
と、ぼくたちに言いい ます。ぼくとお兄ちゃんにい   はぶつかりあいながら新聞しんぶん取りと 走りはし ました。お母さん かあ  は、
「ありがと。」
言うい と、勢いいきお よく水を出し新聞しんぶんをぬらしました。
 メラメラと火が燃えも ているのは、グリルというさかな焼くや ところとおくにあるたくさんあな並んなら だところです。お母さん かあ  はまず、おくあなの上に濡れぬ 新聞紙しんぶんし並べなら ました。つぎに、グリルを引き出すひ だ と、火が大きく噴き出しふ だ てきました。ぼくたちはびっくりしてこえも出ません。お母さん かあ  はグリルの上に濡れぬ 新聞紙しんぶんし乗せるの  と、すぐにグリルを閉めし ました。少しすこ 火が小さくなったような気がします。
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お母さん かあ  はまた、グリルを出して濡れぬ 新聞紙しんぶんし乗せの ました。ぼくたちはお母さん かあ  後ろうし でじっと見ています。それをなん繰り返すく かえ とだんだん火が消えき てきました。ぼくはほっとして、
「よかった。火事かじになるかと思っおも たよ。」
言いい ました。
危なかっあぶ   たね。」
言うい 兄ちゃんにい   かおは、まるでおばけ屋敷やしきから出てきたときのようでした。ぼくは、お兄ちゃんにい   怖かっこわ  たんだなと思いおも ました。
 お母さん かあ  は、
「やったやった。危なかっあぶ   たけどなんとかなるもんだね。こういうのを火事場かじば馬鹿力ばかぢからって言うい んだね。」
得意とくいそうです。怖かっこわ  たけど、スリル満点まんてんでした。騒ぎさわ 終わっお  たときにはドラゴンボールも終わっお  ていました。ぼくたちが、
「あーあ、ドラゴンボール見逃しみのが ちゃったよ。」
言うい と、お母さん かあ  は、
「まあ、いいじゃん。火事かじにならなかったんだから。」
笑いわら ました。

言葉ことばの森長文ちょうぶん作成さくせい委員いいんかい ω)
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a 長文 2.2週 ke
 ぼくは、べんとうをとりだそうとして、ごそごそと、カバンの中をさがしました。
 そのころは、きゅうしょくはありませんでした。
 みんな、アルミニュームのべんとうばこに、ごはんとおかずをつめて、もってきていたのです。
 ところが、どんなにさがしても、べんとうばこはありませんでした。
 わすれんぼうの名人だったぼくは、しゅくだいはもちろんのこといつだって、べんとうをわすれるくせがありました。
 かあさんが、毎朝まいあさつくってくれるのに、ぼくは、うっかりして、台所だいどころのすみっこだのつくえの上だのに、一しゅうかんに、一かいや二かいは、かならずわすれました。
 そんなとき、ぼくはうちまでかけていっては、かあさんたちに、
「また、べんとうがないてるずら。」
なんて、からかわれながら、つめたくなったごはんを、口の中へながしこむようにいそいでたべたものです。
 だから、その日も、そうすればよかったのです。
 ところが、その日は、となりのげんちゃんが、あわてたぼくのようすを、じっと見つめて、そして、やさしいこえで、じしんありげに、そっと、ささやいたのです。
「そうか! のんちゃんわかったよ。おめんちは、おこめがないんだろ。おらあ、おめえ、よくべんとうわすれるなあって、おもってたけど、そうじゃあなかったのか。そうだったのか。」
 そういわれると、ぼくも、ほんとに、そんな気もちになってくるのでした。
 だから、げんちゃんの同情どうじょうしたことばにはなんにもこたえないで、あわてていすにすわりなおし、しょんぼりと下をむいていました。
 ちょうどそのとき、前沢まえざわ先生が、はいってきたのです。
「おおい、きょうは、みんなと会食かいしょくするぞ。」
と、いわれてから、もじもじしているぼくに、気がついたのでしょう。
代田しろた、どうした。」
と、たずねました。
 ぼくはきゅうにかなしくなってきて、「ううっ。」と、しゃくりあげて、なきだしたのです。
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 すると、げんちゃんが、
「先生、のんちゃんは、べんとうがないんです。」
と、べんかいしてくれたのでした。
 先生は、気にもしないで、
「ああ、そうか、わすれたのか。」
と、いってから、きょうだんのつくえのほうにいこうとしました。ところが、げんちゃんは、
「先生、そうじゃあないんです。のんちゃんは、べんとうがもってこられないんです。」
と、おもわせぶっていったのです。
 ぼくは、ぎょっとしました。
 いや、ぼくよりも先生のほうが、もっとおどろいたようでした。
「そうかあ!」
と、しばらくたちどまって、かんがえているようでした。
 それから、おもいだしたように、
「ああ、きょうはつごうで、会食かいしょくはやめだ。」
と、いわれてから、
代田しろた、はなしがあるから、いっしょにこい。」
と、気のどくそうに、やさしいこえでぼくにはなしかけるのでした。
 先生は、ぼくを、ようむいんしつのとなりのたたみのへやに、つれていきました。
 それから、りょう手で、ぼくのかたをかるくたたいてから、
「おまえ、ずーっと、おべんとうをたべていなかったのか?」
と、ききました。
 ぼくは、みょうにみじめな気もちになってきました。
――はい――、というかわりに「こくり」とあたまをさげました。
 すると、いよいよ売らう れていったあわれな東北とうほくの子どもにおもえてきました。
 しゃっくり、しゃっくりをくりかえしながら、なきだしていました。

「ほらふきうそつきものがたり」『げんこつゴツン』(代田しろたのぼる)より
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a 長文 2.3週 ke
 先生は、
「もういい、もういい。どうも、はじめてで、じじょうがわからなくて、気のどくをしたのう。さあ、そこにすわれ。」
といって、もうしわけなさそうに、ぼくを見つめるのでした。
 それから、先生は、じぶんのべんとうをはんぶんずつにわけて、
「さあ、たべろ。なあにえんりょするな。人間にんげんちゅうもんはなあ、いいか、どんなにつらいことがあっても、けっしてへこたれるんじゃあねえぞ。」
と、やさしくいってくれるのでした。
 そういわれれば、いわれるほど、ぼくは、
「ううっ!」
といって、しゃくりあげてなきました。
 しゃくりあげながらも、先生から、もらったおべんとうをたべていました。
 わけてくれたおかずのしおじゃけも、こうやどうふのにしめも、おいしくておいしくて、みんなたいらげました。
 ところが、そのあたりから、ゆめがさめはじめたようでした。
――おまえは、うそをついて、先生のべんとうをたべたのだ。
 どこからか、そんなこえがきこえます。
――いや、あれはゆめの中のぼくで、ほんとは東北とうほく少年しょうねんなんだ。
 そんな、べんかいもきこえました。
 しばらくすると、
――まあいいや、とにかく、こんどのあたらしい先生から、やさしいこえをかけてもらって、べんとうをわけてもらったのは、ぼくだけなんだから。
と、いばったこえもきこえました。
――いや、おもいちがいをした(げんちゃんが、わるいのだ。(げんちゃんのくそぼうずめ。
 こんどは、(げんちゃんのせいにしたこえもでてきました。
 とにかく、ぼくは、おもいあまってしまいました。
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 そのおもいあまった気もちは、うちにかえってからも、つづいていました。
 つぎの日になりました。
 先生にあうのが、こわくなりました。
――いっそ、ずる休みするか。
と、おもいました。
 でも、ぼくのうちは、かんしがきびしくて、とてもだめです。
――ええ! どうにでもなれ。
 ぼくははんぶんやけっぱちになって、しぶしぶと学校にいったのです。
 やっぱり、おもっていたとおりでした。
 ぼくは、一時間じかんめに、しょくいんしつによびつけられました。
 いがぐりあたまのぎょろめの前沢まえさわ先生は、ぼくを、にらみつけて、
代田しろた! よくも、おれをだましたな。」
 そういうなり、げんこつで、
「ゴツン」「ゴツン」
と、ぼくののうてんを、力いっぱいなぐりました。
「いたたっ!」「いたたっ!」
 目から火のでるほどのいたみが、ずしんと、からだぜんたいにひびいてきました。
 でも、ぼくは、こえをだしませんでした。
 もちろん、なきもしませんでした。
 いや、かえって、この「げんこつ」で、むねの中のもやもやが、すうっと、きえていくのがわかりました。

「ほらふきうそつきものがたり」『げんこつゴツン』(代田しろたのぼる)より
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a 長文 2.4週 ke
 シマウマのからだ模様もようは、まるで横断おうだん歩道ほどうのようです。横断おうだん歩道ほどう模様もようはとても目立つので、シマウマの白とくろ模様もようも、草原そうげんの中で目立ってしまい、肉食にくしょくじゅう簡単かんたんに見つかってしまうのではないかと思うおも かもしれません。しかし、そんなことはありません。
 アフリカの日差しひざ 強烈きょうれつです。昼間ひるま太陽たいようがぎらぎらと照りつけて   大地だいち熱くあつ なると、かげろうが立ちのぼります。シマウマの住んす でいるサバンナ地帯ちたいは、広くひろ なだらかなおかのところどころに、低いひく 木の茂みしげ や、背丈せたけ高いたか 草むらがあります。ゆらゆらするかげろうの中で、シマウマの姿すがたはちょうど木や草にまぎれて、見えにくくなります。あのシマ模様もようは、ライオンやハイエナの嗅覚きゅうかくがとどかないところにいるかぎり、守るまも のにとても都合つごうがよいのです。このように、身体からだを見えにくくさせるいろのことを、保護色ほごしょく呼びよ ます。
 シマウマが、なぜ横断おうだん歩道ほどうのような模様もようをしているかについて、もう一つせつがあります。それは、サシバエ(刺しさ バエ)から守るまも ためというせつです。アフリカには、ツェツェバエという大きなハエがいて、アブのように人や動物どうぶつ刺しさ ます。ツェツェバエという名前なまえは、ボツワナの言葉ことばで「うし倒したお てしまうハエ」という意味いみです。ハエにとっては、えある名前なまえかもしれません。人間にんげんがこのハエに刺ささ れると、からだの中に病原びょうげんたいが入って、ときにはいのち落とすお  こともあります。
 ツェツェバエの目から見ると、シマウマのシマ模様もようは見えにくいらしく、シマウマのまわりにたかるハエは、ほかの動物どうぶつ比べくら てぐんと少ないすく  のです。
 ところで、シマウマのしま模様もようは、一とうずつすべて異なっこと  ています。人間にんげん指紋しもんには一つも同じおな ものがありませんが、シマウマの模様もようもちょうどそれとています。わたしたち人間にんげんから見ると、どれも同じおな ように見える模様もようですが、一つとして同じおな ものがありません。
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 さて、しまのつく動物どうぶつは、ほかにもいます。シマリス、シマダイ、シマヘビ、島田しまだくん。それは人間にんげんです。

 言葉ことばの森長文ちょうぶん作成さくせい委員いいんかい(κ)
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a 長文 3.1週 ke
「あ、宿題しゅくだい忘れわす てた。」 
学校に着いつ て、教室きょうしつに入ったぼくは、宿題しゅくだい忘れわす たことに気がつきました。昨日きのうは三丁目ちょうめ公園こうえん遊びあそ 行っい 遅くおそ まで鬼ごっこおに   をしました。三月になってからずいぶん日が延びの たので六まで遊んあそ でいいことになりました。いえ帰っかえ たらやろうと思っおも ていたのに、すっかり忘れわす てしまったのです。
 先生がまえ終わらお  せてしまおうと大急ぎおおいそ でランドセルから宿題しゅくだいのプリントを出しました。ぼくがプリントをやろうとすると、 
「中田くん。もしかしたら、それ、宿題しゅくだい?」 
と、ダイちゃんが、小林先生の真似まねをしてやってきました。小林先生というのは、ぼくたちの担任たんにんの先生です。まるでお笑い わら 芸人げいにんみたいな面白いおもしろ 先生です。
 ダイちゃんが先生の真似まねをしたので、周りまわ にいたみんながげらげら笑いわら ました。ぼくたちは調子ちょうし乗っの 次々つぎつぎと先生の真似まねをしました。突然とつぜん、ゆきちゃんが、
「三年生になったら、どの先生が担任たんにんになるのかな。」 
言いい ました。ぼくは、いすから滑り落ちすべ お そうになりました。 
「小林先生じゃないの?」 
と、思わずおも  叫んさけ でしまいました。みんなは、ちょっとあきれたかおで、
知らし ないの? 三年になったら先生変わるか  って、お母さん かあ  言っい てたよ。」 
と、口々に言いい ました。ぼくは全然ぜんぜん知りし ませんでした。考えかんが たこともありませんでした。ずっと先生と一緒いっしょのような気持ちきも でいたのです。
 先生のつくえ後ろうし 貼っは てあるポケモンカレンダーを見ました。春休みはるやす まであとなん日あるのか知りし たくて、ぼくは数えかぞ 始めはじ ました。
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「一、ニ、三、四、五、六、七、八、九、十。あと十かい!」 
あと十かい学校にたら小林先生とお別れわか なのだと思うおも と、きゅう寂しくさび  なってきました。どうして大事だいじなことを言っい てくれないのかとお母さん かあ  文句もんく言いい たくなってきました。今日きょうよる絶対ぜったい言っい てやるぞと思いおも ました。 
 ぼくがテレビを見ていると、買い物か ものぶくろをぶら下げたお母さん かあ  仕事しごとから帰っかえ てきました。 
「もうはるだね。まだ明るいあか  もんね。はるになると、なんだかうきうきしちゃうね。」 
なんて嬉しうれ そうに言いい ます。ぼくはお母さん かあ  かおを見ないで、
「三年になったら小林先生じゃなくなるんだって。」 
不機嫌ふきげんそうに言いい ました。お母さん かあ  買い物か ものぶくろ置いお てぼくのよこ座りすわ ました。 
「そうだね。お母さん かあ  も小林先生のファンだったから寂しいさび  よ。ずっと小林先生だったらいいのにね。でも、そんないじけたかおをしていると、小林先生も元気げんきがなくなっちゃうよ。」 
言っい て、ぼくの背中せなかをぽんとたたきました。小林先生は楽しいたの  ことが大好きだいす です。寂しいさび  けれど、最後さいごまで元気げんきかおでいようとぼくは思いおも ました。

言葉ことばの森長文ちょうぶん作成さくせい委員いいんかい ω)
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a 長文 3.2週 ke
 ふと気がついたとき、しっかりと、手にもってきたふろしきづつみが、ぬれているのです。くすりをつつんできた、あのふろしきづつみです。
 はっとして、ゆきみちにうずくまると、つつみをといてみました。水ぐすりがこぼれて、三分のぶん 一ぐらいへっているのです。こなぐすりのふくろは、べったりとぬれて、ちゃいろのしみをつくっていました。コルクのせんが、ゆるんでいたのです。ほてっていたからだじゅうのあせが、つめたくなるほど、びっくりしました。
 そのくすりだいがいくらだったか、いまはおもいだせませんが、わがやのくらしの中で、それは、たいへんなお金だったことだけは、たしかです。けんこうほけんなどはなかった、ずっとむかしのはなしです。
 どうしたら、よかっぺか――
 わたしは、ゆきの上に、べったりと、すわりこんでしまいました。
 このままいえへかえったら、ははがどんなにがっかりするか……、うんとしかられることは、わかりきっています。もう一どもどってくすりをもらうには、お金がありません。五年生だったわたしには、どうしたらいいのか、わかりませんでした。
 そのとき、小さな水の音がきこえてきました。道ばたみち  の石がきのあいだから、ちょろちょろとながれでている、わき水の音です。学校のいきかえりに、きまってのんでいく水でした。だれがもってくるのか、みじかい青竹が、かけひのようにさしこんでありました。青竹は、ときどきだれかにひきぬかれます。すると、フキの葉っぱは  をまるめて、さしこんであることもありました。
 わき水は、なつの日のように、ふきだしてはおりません。雨だれのように、ぽつん、ぽつんと、そこだけ、ゆきをとかしておちていました。
 わたしは、おもわず、まえとうしろを見まわしました。ひとっこひとり、あらわれません。たちあがると、そのかけひの下に、くすりびんを、あてがっていたのです。
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 びんの中のくすりは、うす茶  ちゃいろになりましたが、三日ぶんのその目もりまで、いっぱいになりました。
 しっかりせんをすると、びんだけをふろしきにつつみなおし、こなぐすりのふくろは、ふところのはだのところまで、じかにいれました。からだのぬくもりで、すこしでもかわかそうとしたのです。
 そして、のろのろ、あるきだしました。あるきながら、うそのいいわけを、いっしょうけんめいかんがえていました。
「いってきたよ。」
 わたしは元気げんきのないこえで、そうあいさつしながら、おもい大戸おおどをあけました。
 いろりには、火がもえていて、けだるそうなかおをして、はははおきていました。
 わたしは、だまって、あがりはなにこしをおろすと、ははのほうにせなかをむけたまま、ゆっくりと、ながぐつをぬぎました。そのようすが、ふだんとはちがうことに、ははは気づいたのでしょう。
「どうかしたんか? あたまでもいてえだか? くすりは、もらえたんか?」
と、やつぎばやに、ききました。
「もらってきたけえど……。いしゃどんからでたとこの水ったまりへおとしちまって……。」
 わたしは、ふところからぬれたこなぐすりをだすと、いろりばたからはとおい、あがりはなのいたのまに、ひざをついてなきだしたのです。
 みちみち、かんがえてきたうそのいいわけを、とうとういってしまったじぶんが、こわくなっていたのかもしれません。
「ぬれたぐれえ、かわかせばすむこった。あっち(心配しんぱい)はねえ。こんだっから、気いつけるだよ。」
 ないているわたしが、かわいそうだったのか、ははは、やさしくそういっただけで、ぬれたくすりぶくろを、かわかすように、いろりのすみにおきました。
 いろのうすくなった水ぐすりは、いつもいれておくだなへ、じぶんでそっとしまいました。
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長文 3.2週 keのつづき
 さむいけれど、ははとむきあって、いろりの火にあたるのは、つらかったので、
「おひるごろっから、あたまがいたくってー。」
 そういって、こたつの中へもぐりこみました。
「かぜっけなだっぺあ、かぜにこたつはどくだぜ、ちゃんとふとんにねて、ひとあせかいたがいい。」
 むりやり、ふとんにねかされたのでした。
 目をつぶると、
(くすりって、なんの水でつくるのだんべえか。くすりの中へ、ただの水をたしてしまって、どくにはならなかっぺえか――。)
 と、つぎつぎ、またしんぱいになりました。

「ほらふきうそつきものがたり」『かけひの水』(宮川みやがわひろ)より
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a 長文 3.3週 ke
 ふいに、わたしは、かたのあたりをうしろからぐいとおされて、ころびそうになりました。ふりむくと、
「おい、じゃまだぞ。どけよ。」
 そばに、グローブをつけたのっぽの男の子が、わたしを見おろしてたっていました。しらないまにわたしは、やきゅうのコースのまんなかにたっていたのです。はっと気がつくのといっしょに、
「さっさといけよ。のろまのあんぽんたん。」
「どかないと、ぶんなぐるぞ。」
 東京とうきょうべんのわる口が、ポンポンいりみだれて、わたしの耳にとびこんできました。ぶんなぐるなどといわれたのは、うまれてはじめてです。それに、あるけっていったって、どっちへいけばいいのかわかりません。わたしは、あたまがかっとなって、からだをかたくしてつったったまま、なきそうになりました。そのとき、
「どうしたの、キミちゃん。」
 よかった、としえちゃんでした。かけとおしてきたのか、まだ、ふうふういっていました。わたしは、ほっとして、どもりながら、
「あの、あのう、あの人たち、たたくって。じゃまだって、ここにいると……。」
 じぶんでなにをいったのか、きれぎれにそれだけいうと、きゅうにかなしくなって、ポロポロ、なみだがでてきました。
「どの子が? ああわかった、けんちゃんでしょ。おかあさーん、けんちゃんがね、キミちゃんをぶったんだって。」
 わざとそういったのか、かんちがいしたのか、としえちゃんは、うちのほうへむかって、大声おおごえでさけんだのです。元気げんきなおばさんのことだから、そのこえをきいたら、ひばしかほうきをもって、すっとんでくるかもしれません。わたしは、あわてて、ちがうって、せつめいしようとしましたが、なきながらだし、それに、東京とうきょうべんでいおうとするので、ことばがうまくいえません。
 いっしゅん、男の子たちは、おどろいたように、ポカンとつったっていましたが、けんちゃんとよばれた、いちばん気のよわそうな子が、なきそうなこえをふりしぼって、
「ぶちゃしないよォ、いなかっぺの、うそつきィ。」
と、ありったけのこえでさけぶと、くるりとうしろをむき、ワーッとなきながら、いちもくさんにおかをかけおりていきました。
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ほかの子も、くもの子をちらすように、にげさっていきました。
 夕やけはいつのまにかきえて、はださむい夕やみがおかの上にもただよいはじめていました。
「さ、いきましょ。」
と、としえちゃんは、ねえさんぶって、わたしのかたに手をまわしあるきだしました。
 「いなかっぺの、うそつき」――そのときになって、はじめて、このことばのいみが、おもく、わたしにのしかかってきました。
 うそつきは、どろぼうのはじまり。うそをいうと、死んし でから、えんまさまにしたをぬかれるって、いつもかあさんがいう。わたしは、東京とうきょうの子に、みんなのまえでうそつきといわれた。しらない土地とちで、しらない子が、「いなかっぺの、うそつき」と、はっきりそういった。それも、あんなにくやしがって、なきながら。――「いなかっぺ」って、そんなにわるいものなのかしら、それに、わたしは、ほんとに「うそつき」なのだろうか。このことは、かあさんと秋田あきたいえへかえってからも、あたまからきえませんでした。
 とおいとおいむかしの小さな小さなできごとです。けんちゃんとよばれたあの子も、いまはおじいちゃんになって、どこかでまごとあそんでいるかもしれません。それとも、日本じゅうのわかものたちが、せんそうにつれていかれた、あのころ、中国ちゅうごくか、マレーおきのうみで、みじかいいのちをちらしてしまったのかもしれません。
 戸山とやまはらも、いまは学校やビルがたちならび、ひろいどうろができ、すっかりかわってしまいました。あのあたりの町のようすも、どこがどうなったのか、おもいだすこともできません。あそんでいる子どもたちも、みんな、しらないかおばかりです。
 それなのに、あの東京とうきょうのうら町の、小さいおかから見た、夕ぐれどきのものがなしいけしきと、小さなわたしの目の中でピンクいろにふくらんでいった大きななみだと、あの東京とうきょうの男の子のかなしそうなこえだけが、カラーテレビのように、いまもはっきりと、わたしの目に、耳に、のこっているのです。

「ほらふきうそつきものがたり」『いなかっぺのうそつき』(増村ますむら王子きみこ)より
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 夏休みなつやす ともといえばやはりカブトムシです。昆虫こんちゅう王様おうさま呼ぶよ にふさわしいその姿すがたは、子どもたちの視線しせんをとらえてはなしません。ペットショップのカブトムシコーナーは、毎年まいとし黒山くろやまの人だかりができていますし、採集さいしゅうツアーも登場とうじょうするほどです。
 いかにも丈夫じょうぶそうな姿すがたのカブトムシですが、そのいのちはそれほど長いなが ものではありません。たまごからかえり、ふゆ越しこ 幼虫ようちゅうは、さなぎへと姿すがた変えか なつになると成虫せいちゅう、つまりカブトムシへと変身へんしんしますが、成虫せいちゅうになってからのいのちはおよそ一か月ほどといわれています。ですから、夏休みなつやす 終わるお  ころは、ちょうどカブトムシのいのちもつきる時期じきにあたるのです。クワガタムシも、カブトムシと並んなら で人気があります。カブトムシがひとなついのちなのに対して たい  、クワガタムシの場合ばあい種類しゅるいによっては越冬えっとうできるものもあります。えっとうれしくなってしまうでしょう。
 大切たいせつ育てそだ ていたカブトムシの悲しいかな  ものですが、死んし でしまったからといってすぐに飼育しいくケースを処分しょぶんしてはいけません。ケースの中の腐葉土ふようどをそっとのぞいてみましょう。もしかしたら、小さなたまごが見つかるかもしれません。直径ちょっけい三ミリ程度ていどの白くて丸いまる たまごです。孵化ふか直前ちょくぜんたまごは大きさは五ミリ程度ていどになり、いろ黄色きいろ帯びお てきます。このたまごをじょうずに育てるそだ  ことができたら、大切たいせつにしていたカブトムシの二世にせい対面たいめんできる日がやってくるのです。
 たまごからかえった幼虫ようちゅうは、おもに腐葉土ふようど食べた て大きくなります。幼虫ようちゅう時代じだい摂取せっしゅした栄養えいようが、成虫せいちゅうのカブトムシの大きさを決定けっていけます。いったん成虫せいちゅうになってしまったら、どんなに樹液じゅえき吸っす たところでそれ以上いじょう大きくはなりません。立派りっぱな大きさのカブトムシは、幼虫ようちゅう時代じだい十分じゅうぶん栄養えいよう取っと ていたのです。もしも人間にんげんがカブトムシと同じおな 性質せいしつだったらどうでしょう。成人せいじんしたらいくら食べた ても太らふと ないわけですから、ダイエットに励んはげ でいる大人にとってはなんともうらやましいはなしです。
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 通常つうじょう、一ぴき幼虫ようちゅうさなぎになるまでに食べるた  腐葉土ふようどりょうは、洗面せんめん山盛りやまも 一杯いっぱいぶんにもなるそうです。カブトムシは、そんな大量たいりょう腐葉土ふようどをかぶっとむしゃむしゃ食べた てしまうのです。さすがに昆虫こんちゅう王者おうじゃ驚いおどろ てしまいます。
 友達ともだち自慢じまんできるくらいの大きなカブトムシを育てるそだ  ためには、良質りょうしつ腐葉土ふようど絶えずた  補充ほじゅうしてあげることが大切たいせつです。また、飼育しいくケースの中のフンを取り除いと のぞ たり、掃除そうじをしたり、根気こんきよく世話せわ続けるつづ  ことが必要ひつようです。
 では、カブトムシとクワガタムシでは、どちらが強いつよ でしょうか。カブトムシの得意とくいわざは、カブト割りわ でしょう。クワガタムシの得意とくいわざは、もちろんクワ固めかた です。結果けっかは、カブトもクワガタも、お互い たが をムシして引き分けひ わ になりました。

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