長文集  5月2週  ★生物界の中でヒトという種を(感)  ma-05-2
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2012/06/15 08:09:22
 【1】生物界の中でヒトという種を特徴づ
けてみると、優れた学習能力がほぼ一生にわ
たって維持される、ということが第一に挙げ
られるであろう。
 【2】例えば、クジラやライオンのような
大型哺乳類について言えば、クジラは水中生
活に便利なように体型が変化しており、また
ライオンやトラは、筋肉が発達し、敏捷で、
しかも鋭い牙や爪を備えている。したがって
、ある環境条件下では餌を手に入れ、種族を
維持していくことが容易である。【3】反面
、これらの大型哺乳類は、限られた環境下に
おいてのみ繁栄しうる。クジラはもはや陸上
で生活することはできないし、ライオンやト
ラは比較的大きな草食獣が手に入らなくなっ
たらおしまいである。
 これに対して、サルの仲間は、そういった
身体上の特徴を持っていない。【4】さらに
また、生まれつきの行動の仕組みが比較的少
なく、加えて雑食性でもあるところから、様
々な環境に適応しう る。いわば、他の大型
哺乳類が特殊化するという方向で進化してき
たのに対し、サルの仲間はむしろ、環境に対
する柔軟性において進化してきた、というこ
とができるであろう。
 【5】したがって、サルの仲間では、経験
に基づいて外界についての知識を身に付ける
ことが、個体の生存にとっても、また種の維
持にとってもそれだけ重要になってくる。つ
まり、サルはもともと学習する種である、と
言い換えることができる。【6】外界につい
ての知識を得ること――それによって、どこ
が安全か、どのようにしたら食物が手に入る
か、などを的確に判断できることが生存のた
めに不可欠なのである。
 しかし、このような事情は、ヒトにおいて
より一層顕著に認められる。【7】ヒトは他
の類人猿と比べてさえ、生まれつきの行動の
仕組みが少ない。このために、チンパンジー
の子供とヒトの子供とを双生児のように育て
てみると、初めの数か月間は、むしろヒトの
子供の方が知的にも劣っているという印象を
与えるほどなのであ る。∵
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 【8】さらにヒトの場合には、それぞれの
個体が自らの直接の経験に基づいて知識を集
積するばかりでなく、他の個体の経験を言語
などを媒介とすることによって利用すること
もできる。つまり、学習が社会的な性格を持
つに至っている。【9】ヒトの個体の生存や
種族維持は、それぞれの個体ごとの経験に基
づく知識にばかりでなく、文化という形にお
いて集積された他の個体の経験を摂取しうる
(自分のものとしうる)ことにも依存してい
る、とさえ言ってよいであろう。こうして集
積された知識がなければ、ヒトはいかにも無
力な動物なのである。【0】
 ここで、学習とか知識とかいう用語が、必
ずしも日常的用語と、意味において一致して
いないことを注意しておこう。ここでの学習
とは、単に学校などでする学習というだけの
意味ではなく、様々な経験に基づいて外界に
ついての知識を獲得することとほぼ同義であ
る。また知識というのも、個別的な事実につ
いての知識(いわゆる断片的な知識に近い)
や、判断・実行の手続きについての知識ばか
りではない。ここでいう知識は、外界の事物
、自分自身、及びその関係についてのある程
度体系だった情報も含む。ヒトは、このよう
な情報の体系を持つことによって生きのびて
きたのだし、また、現在の社会でもこうする
ことによって初めて有能に行動しうるのであ
る。