長文集  6月3週  ★落ちて来たら(感)  ma-06-3
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2012/06/15 08:09:22
 【1】落ちて来たら
 今度は
 もっと高く
 もっともっと高く
 何度でも
 打ち上げよう
 美しい願いごとのように
 
 この詩は、作者がある雑誌の依頼で、子ど
もが紙風船で遊んでいる一枚の写真につけた
ものだそうです。【2】紙風船は打ち上げて
もまたふわりふわりと落ちてきます。宇宙船
の船内なら上がったままでしょうが。願いご
とも多くの場合、すーっと落ちてきます。
 この詩のいのちは、
 美しい願いごとのように
というすばらしい「比喩」にあると言えるで
しょう。
 【3】作者は、この詩について「風船はど
んなに高く打ち上げても、それは地に落ちる
」「願いごとの多くはむなしい」というニュ
アンスから、どうしたら抜け出すことができ
るかに努力したと述べています。【4】この
詩を読むと、いつも光さす空を見ていよう、
紙風船が落ちてくるのに目をとめるより、何
度も打ち上げるそのことに生きる証を見つけ
よう、というような祈りに似た詩の心が伝わ
ってきて、励ましさえ感じます。
 【5】いつだったかテレビの料理番組で、
料理の先生が「なるべく(産地が)遠くの味
噌をあわせて(まぜて)使うと、おいしい味
噌汁ができる」と話しているのを聞いて、言
葉も同じだなと思いました。
 「月とスッポン」ということわざがありま
す。【6】二つの物があまりに違いすぎる、
不相応だという意味ですが、このことわざ自
体、月とスッポンという非常に遠い物を結び
つけて、「月とスッポンのようだ」としてい
るために、長くわたしたちの印象に残ること
となったとわたしは思います。
 【7】比喩を、日常の会話でも効果的に使
うと、表現が生きてきます。「赤ん坊が激し
く泣く」というより「赤ん坊が火がついたよ
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うに泣く」、といったほうが印象の強い表現
になります。また、比喩∵は詩歌で古来重要
な働きをしてきました。
 【8】ところでいつだったか、これもテレ
ビで見たのですが、スポーツ評論家のSさん
が、こんな話をしていました。
「フォークボールの投げ方を選手に教えるの
に、球をこう握ってこうして投げるんだよと
、動作で見せるばかりでなく、カーテンのヒ
モを下へ引っ張るように――という例えで話
してやると、印象強 く、よりよく伝えるこ
とができる」
 【9】驚きました。フォークボールを投げ
るというような肉体的な技術は、その動きを
やってみせることが最上の、それ以外にない
教え方だと思っていましたが、そこに比喩が
大きな働きをするなんて!【0】

(川崎洋「教科書の詩を読みかえす」から)