長文集  7月1週  情熱のある生き方  mi-07-1
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2014/06/09 09:49:30
 【1】野生の動物は、いつもたくましく生
きている。ペットの動物たちとは違い、常に
らんらんと目を輝かせ、獲物を追い求め、あ
るいは獲物となることから逃れ、自分たちの
子孫を残すために精一杯生きている。【2】
この情熱的な生き方を、私たち人間も、もっ
と見直す必要があるのではないだろうか。
 その理由は第一に、情熱的に生きることが
、人間にとっても本当の喜びにつながると思
うからだ。数年前、家族で山に登ったことが
ある。【3】山頂近くにある山小屋に泊まる
予定だったが、途中の山道で雨が降り始め、
やがて大雨になった。全身ずぶ濡れになった
まま歩くこと数時間、やっと山小屋にたどり
着き、冷え切った体を乾かし、お湯を沸かし
て紅茶を飲んだ。【4】そのときの一杯の紅
茶は、生き返るという言葉がぴったりするよ
うな味だった。クーラーや暖房の効いた部屋
で、気に入った音楽を聴きながらゆっくり飲
む紅茶とはまた違った、生きている実感のわ
く味だった。【5】情熱的に生きるというこ
とを考えるとき、この山登りと紅茶の味を思
い出す。
 第二の理由は、情熱的に生きることによっ
て、自分の持ち味を十分に発揮した生き方が
できるということだ。【6】戦国時代という
下剋上の激しかった時代は、日本人が誰でも
自分の実力で生きていかなければならない時
代だった。その時代に生きた戦国大名たち 
は、現代から見るとそれぞれ個性に溢れた魅
力ある人物に見える。【7】よく、信長、秀
吉、家康の三通りの生き方を人間の生き方の
三つの代表的な類型とすることがある。そこ
に見られる個性は、その三人が、地図も道も
ない言わば野生の世界で、自分の手で道を切
り開いて生きるために、持ち味を生かさざる
を得なかったことから生まれたものだ。∵
 【8】確かに、社会保障のもとで安心して
暮らせる人生というものも、人類がこれまで
の長い歴史の中で達成してきた成果である。
特に、昔のような農業中心の社会ならいざ知
らず、今日のように工業化され経済的な格差
が広がりやすい社会では、最低限度の生活を
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国が保障する仕組みというものは欠かすこと
ができない。【9】だから、大事なことは、
底辺はしっかりと保護するものの、それより
も上の部分については規制を撤廃して自由な
競争に任せることだ。自由な社会でそれぞれ
が自助の精神で物事にあたるならば、それは
野生動物のように生きている実感を呼び起こ
すことにつながるだろう。【0】情熱とは、
単に心の持ち方で生まれるものではなく、行
動の中から生まれるものだ。私もまた、安全
な道を求めるのではなく、自分の力で道を切
り開く自分にしかない生き方をしていきた 
い。

(言葉の森長文作成委員会 Σ)