長文集  10月1週  季節を感じて生きる  mu-10-1
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2014/09/04 14:36:49
 【1】朝、学校に向かう道の途中に、背丈
よりもわずかに高いキンモクセイの木がある
。秋になると、風に乗ってほのかに甘い香り
が漂ってくる。ちょうどこの花が咲くころに
、懐かしい思い出があったような記憶がある
。【2】それが何だったのかは忘れてしまっ
たが、キンモクセイの香りをかぐと、小さい
ころの自分の気持ちが戻ってくる。
 今の生活は、定期テストがあったり、部活
の練習や試合があったり、学校行事の準備が
あったりと、毎日があわただしい。【3】時
間に追われて生活していると、気持ちがだん
だんと単調になってくるようだが、そんなと
き、懐かしい花の香りに触れると、その季節
を思い出し、ふと自分を振りかえる気持ちに
なれる。
 【4】季節を感じて生きることが大事だと
思う理由は、第一に、季節ごとの思い出に応
じて人生がそれだけ豊かになることだ。
 例えば、夏というと、私がまず思い浮かべ
るのは、子供のころ、海辺で食べたスイカ割
りのスイカの味だ。【5】みんなで輪になっ
て少し砂の混じったくずれたスイカをたっぷ
り食べた。種の飛ばしっこをしてみんなで笑
ったことや、そのときの波の音や空の青さが
今でも心に残っている。【6】もしこれが、
夏でも冬でも同じようにスイカが買えて、パ
ックにきれいに詰められているスイカを食べ
るだけだったら、懐かしい思い出にはならな
かっただろう。
 もう一つの理由は、季節を感じて生きる生
活こそが、環境にとっても無理のない合理的
な生活だからだ。
 【7】例えば、夏の暑い日にクーラーを効
かせた生活をすれば、家の中や車の中は確か
に涼しいが、その涼しくなった分だけ熱が外
に排出される。その結果、都会はますます暑
くなり、その暑さに負けないように更にクー
ラーを効かせるようになる。
 【8】これを、もし夏は暑いものだと割り
切って、薄着をした り、窓を開け放したり
、水を打ったり、風鈴をつけたり、木陰がで
きるように木を植えたりすることで対応する
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ならば、それは自然と調和した優しい社会を
作ることにつながるだろう。∵
 【9】確かに、人間は科学を発展させて、
季節に制約されない文化を作り上げた。病人
や老人にとって、暑い夏は負担である。健康
な人にとっても、エアコンで調整された環境
の方が、勉強も仕事も大いにはかどる。【0
】しかし、その便利さに慣れるあまり、多様
な季節を一色に塗りつぶすようなことをして
は、人間の文化も私たちの感覚も、同じよう
に機械的な一色に塗りつぶされることになら
ないだろうか。自然とは、私たちの外側にあ
るものではなく、私たち自身も含む世界であ
る。自然を豊かに感じることは、自分自身を
豊かにすることにもつながっているのだと思
う。

(言葉の森長文作成委員会 Σ)