長文集  11月1週  ★ミミズがある生態系に(感)  mu-11-1
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2016/09/14 14:26:49
 【1】ミミズがある生態系に生存すること
で「自然の経済」にどんなかかわりをもつか
、それが、イギリスの生んだ偉大な生物学者
チャールズ・ダーウィン(一八〇九~一八八
二)のミミズに関する着眼点だった。【2】
彼は、邦訳『ミミズと土』で知られる『ミミ
ズの習性に関する観察とミミズの働きを通し
ての有機土壌の形成』という長い表題の書物
を、一八八一年に出版した。【3】「このよ
うに分化の低い動物で、このように重要な役
割を演じてきた動物 が、ミミズ以外にいよ
うか。【4】もっと分化の低い動物、すなわ
ちサンゴはサンゴ礁を形成してきたが、それ
はほとんど熱帯に限られてきた」と、海のサ
ンゴと対比して、地表で絶え間なく働き続け
てきたミミズに敬意を表し、ケント州ダウン
の家の庭で数々の実験的観察を行っている。
 【5】タバコには関心を示さなかったミミ
ズが、キャベツやタマネギはすぐ穴に引き入
れる様子を観察しているであろうダーウィン
の姿を想像すると、思わず微笑んでしまう。
【6】特に、一定面積内に住むミミズの数量
については、一平方メートル当たり一三・三
匹、一匹(いっぴき)を三グラムとすると一
平方メートル当たり三九・九グラムであるこ
とを推定している。【7】そして、それらの
ミミズがどのように糞(ふん)を排出するか
、一定面積当たりの糞(ふん)の排出量はど
のくらいか、結果として地表の土とミミズが
どのようにかかわってきたか。【8】その一
例として、一八年前に石灰をまいた畑に堀を
掘った時、切り立った側面に五四メートルに
わたって地表から一七・五センチメートルの
深さに石灰の層があるのを観察、ミミズは平
均して一年に約一センチメートルの土壌を地
表に排出しているとして、ミミズの絶え間な
い働きが、有機土壌の形成に大きな貢献をし
てきたと述べている。【9】結論として、イ
ギリスでは毎年一エーカー当たり、乾燥重量
で一〇トン以上の土がミミズの体を通して排
出され、その働きゆえに、古い歴史上の遺物
も保存されてきたというのである。
 【0】ところで、ダーウィンのミミズの研
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究にも触れた有吉佐和子の小説『複合汚染』
は、一九七四年新聞に発表され、多くの人々
の関心をひいたが、その中に、人間が自然を
ひどく傷めつけた結 果、自分たちの命にひ
どい影響が及んでいる現状が詳しく書かれて
いる。農村を回ってよく聞く「土が死んだ」
という言葉について述べた∵箇所を引用する

 ――「例えばよ、わかりやすく言えば、ミ
ミズのいねえ土のことだな。硫安かければよ
、ミミズは、即死すっから。ミミズがいねえ
とよ、土が固くなって、どうにもなんねえす
。土が死んだっちことは、ミミズが死んだっ
ちことだなあ。」
 土とミミズ。例外はもちろんあるけれど、
ふつうのミミズは、土を豊かにするために決
定的に重要な動物である。「進化論」で有名
なダーウィンは『ミミズと土』という書物を
著し、多年にわたる研究成果をもとにして、
自然の中でミミズが受けもつ役割について詳
述し、もしミミズがこの世にいなくなったら
植物は滅亡に瀕するだろうと結論している。
 ミミズは、毎日、土を食べて生きている。
土はミミズの口から入って外へ出ると、また
土になる。しかし、ミミズの口へ入る前の土
とミミズが外へ出した土とは、土の性質がま
るで違っている。第一に、土と一緒に呑み込
まれた新鮮な草の葉や半腐れのワラなどが、
ミミズの体内の分泌液によって豊かな黒い土
になって出てくる。第二に、出てきた土は細
かい団粒状であるから、水や空気が通りやす
く、ふわふわと柔らかくなる。――
 農村で多くの人々が、ロにしている「土が
死んだ」ということ、それは「ミミズが死ん
だ」ということだというのは、実に深刻な事
態である。もう少し引用を続ける。
 ――篤農家たちが化学肥料によって「土が
死んだ」と嘆く場合、当然、「土は生きてい
る」ものという前提がある。一グラムの土の
中には数千万から数億という数えきれない単
細胞生物やカビが棲息していて、互いに複雑
な関係を保っている。ミミズの場合は、人間
の目に見える生態系だが、単細胞生物やカビ
のそれは、まだ研究し尽くされてはいない。
――
 その生存と死滅をこのように取り上げられ
、ミミズにとってはまさに晴れの舞台とも言
えようが、ここで訴えるところが、四億年以
上にわたって生存し続けてきたこの動物の地
球上からの消滅を救うものになってほしいと
思う。

 (中村方子の文章による)