長文集  12月3週  ★二一世紀を資源循環型社会に(感)  mu2-12-3
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2012/06/15 08:09:22
 【1】二一世紀を資源循環型社会に転換さ
せていくために守らなくてはならない常識を
広く浸透させるためには、環境倫理の確立が
望まれる。具体的には、環境倫理を国民の守
るべき最優先モラルのひとつとして位置づけ
、幼児から環境教育を徹底させることが必要
だ。
【2】『大江戸リサイクル事情』『大江戸エ
ネルギー事情』などの著書がある作家の石川
英輔氏によると、江戸時代は、世界に例のな
いような見事な資源循環型の社会をつくりあ
げていたとして、様々な事例を紹介している
。【3】資源を大切に使う、無駄なくリサイ
クルさせるといった「もったいない精神」が
、人々の心の中に自然な形で息づいていた。
 たとえば、農産物の消費地である江戸と、
人間の排泄物である下肥を肥料として使う農
村との間では、完壁といってよいほどのしっ
かりしたリサイクルの輪ができていた。【4
】下肥を運ぶ「部切 船」が頻繁(ひんぱん
)に江戸と農村を行き来していた。下肥を使
う習慣のなかった西洋では、同じ時代、排泄
物を川や排水用の溝に一方的に捨てていたの
で、たとえばパリのセーヌ川やロンドンのテ
ームズ川は汚物が腐敗し、住民は悪臭に悩ま
された。【5】このころの江戸は、資源のリ
サイクルが徹底し、世界一清潔な都市だっ 
た。
 明治に入ってからも、日本人の伝統的な節
約心、もったいない精神は脈々と生き続けて
きた。それがすたれてしまったのは、第二次
世界大戦後、高度成長の時代に入ってからで
ある。【6】「大きいことはいいことだ」と
いったテレビコマーシャルが一世を風靡し、
バブル期には、ガソリン消費量の大きい三ナ
ンバー(大型車)がもてはやされた。冷蔵庫
も電力消費量の大きい大型のものがよく売れ
るようになった。【7】使い勝手のよい「使
い捨て商品」が奨励され、家電類やワープロ
、パソコンなども頻繁(ひんぱん)にモデル
チェンジが行われ、新製品が次々登場した。
 【8】大量生産、大量消費の経済の歯車が
順調に回転するためには、製品を量産するこ
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とが欠かせなかったし、そのためには、まだ
使える製品をせっせと捨てさせることが、新
しいマーケティングの手法∵として歓迎され
た。【9】消費者も、便利な使い捨て文化に
浸ることが、時代の先端を行く消費行動と思
い込んでいた。それ が、当時を支配する時
代の空気だったのである。だがそうした一方
通行型の経済システムが長く続くはずはなか
った。地球の資源は無限ではなく有限であり
、酷使すれば劣化する存在でもあるからだ。
 【0】日本人にとって、環境倫理の確立は
それほど難しいことではないだろう。日本人
にはもともと、資源を大切に長持ちさせて使
う、無駄をなくす、リサイクルさせる、環境
を悪化させない――といったもったいない精
神が伝統的に身についている。それが戦後の
数十年の間、脇道に逸れてしまった。それを
元の軌道に戻せばよ い。今でも、地方に行
くと、もったいない精神を身につけたお年寄
りが多い。彼らは、小さい時から、親や小学
校の先生から物を大切に使うこと、環境を汚
さないことなどを徹底的に学びながら育っ 
た。同じような環境教育が今、再び求められ
ている。

(三橋規宏()「ゼロエミッションと日本経
済」より)