1. 【1】アフリカの
田舎を自転車で
訪れると、
珍客が来たということで
歓迎され、村にあるとっておきのゴリラ、サル、
芋虫、ナマズ、ヤマアラシなど
貴重な食べ物でもてなされた。
2. 【2】ある日、目的地の村に
到着して
泊めてもらうことになり、いつものように
晩ご飯を待っていたが、日が
暮れてもいっこうに声がかからない。おかしいな……、と思いながら
お腹が空いていたので手持ちの食料を食べた。
3. 【3】そのときの体験を小学校の子どもたちに話して、「どうしてご飯を出してもらえなかったんだと思う?」と聞く。すると子どもたちは
一生懸命考えて、
4. 「村にご飯がなかったから」
5. 「知らない人だからご飯を出さなかった」
6. 【4】「ご飯を出さないで、達さんがどんな
反応をするか見ようと思ったから」
7. 「
獲物を
獲りに行っていたから」
8.という答えをくれる。相手に理由や
原因がある、という考え方だ。
9. ところが
質問をしていると、ひとりの男の子が小声で「自分の
挨拶が足りなかったから」と答えたことがあった。【5】これはとても大切な考えだと思う。自分の方にも何か
原因があったかもしれない、何かできることがあったかもしれない、という考え方だ。
10.
僕の
前述の問いに対する答えは、「毎日ご飯を食べさせてもらうのがいつの間にか当たり前になってしまって、
感謝の気持ちがなかった。【6】だからそんな人にはご飯を出さない、と思われたのかもしれない」というものだ。
主張するのも大事だが、人の家で食べさせていただくのに
感謝の気持ちがなかった、きちんと
挨拶していなかった、相手に失礼なことをしたなど、もしかしたらこちら側に問題があったかもしれないと考えることを伝えたい。【7】なんでも人のせいにしていると最後にはなにも見えなくなり、
夢や目標があっても
実現させることができなくなってしまう。
僕がそう話すと、子どもたちは静まり返って
真剣な顔で聞いている。∵
11. 【8】自転車世界一周というと自分には関係のない話だと思われるかもしれないが、きちんと
挨拶したり、自分の行動に
責任を持ったりする点では
普段の生活と変わらない。子どもたちはこの辺を
敏感に感じ取ってくれる。【9】そして、「これからは
挨拶をきちんとしよう」とか、「人のせいにするのはやめよう」という感想文をくれ、先生方も「子どもたちが前より
挨拶するようになりました」と言ってくださることがある。
12. 【0】また中高生になると、受験も、
就職も、クラブも、人間関係も、
無意識でも最終的には全部自分で決めている、と話すことがある。
挨拶したらどうなるか? お礼をしなかったらどうなるか? 自分にできることはなかったか? いい答えを聞きたかったらいい聞き方をしなくてはいけないなど、自分の行動一つで
展開に大きな
違いが出てくることを体験から伝える。つまり未来は自分次第でいくらでも変わるという考えだ。
13.
僕も最初はギニアで
井戸を
掘るのは相当
困難だと思っていた。
経験も
知識もネットワークもない自分が、ほとんど部族語しか通じない山村でひとりでプロジェクトを起こすのだから。
14. でも目的を持ってできることを一つずつやっていたら、いろんな出会いや出来事に
恵まれて
井戸掘りが
実現に向かった。小さな行動を積み重ね、あきらめなければいろんなことができる。
15.(坂本達『やった。』より)