長文 7.3週
1. 【1】我が身わ みをつねって人のいたさを知れ
2. 自分の苦しさいたさを思い出して、人の苦しみや痛みいた を思いやれ、ということわざです。自分自身のこととして人のことを考えよということです。古くから言い伝えられてきたことわざのひとつです。
3.【2】「同病相憐れむあわ  同憂どうゆう相救う」(『えつ春秋』)
4. 右の、特に上の句かみ くは、聞いたことがあるでしょう。かれも病気、自分も病気、それなら苦痛くつうはそのまま同じだから、そのつらさはよくわかります。【3】「つらいだろうな。自分もこんなにつらいもの」と。この言葉全体は、同じ境遇きょうぐうにある者同士は、苦痛くつうや気持ちがよくわかり、いたわりあい助け合うことができるということです。
5. 【4】表題のことわざは、意味がちがう。痛いいた のは相手の方で、自分はなんでもない。人間はそういう時には相手の痛みいた になかなか同情どうじょうが持てないものです。そこで、自分も同じように我が身わ みをつねってみたら、というのです。【5】「痛かっいた  たでしょう。だからあの人の痛いいた こともわかるでしょう」と言っているのです。
6. 想像そうぞう力の弱さが同情どうじょう心の足りなさになるのではないでしょうか。少し話が飛躍ひやくしますが、日本人は金の力にまかせて、発展はってん途上とじょう国の資源しげんを買いあさり、原住民を苦しめていると言われています。【6】日本人自身は、さしあたって痛まいた ないし、どうして相手国の痛みいた 想像そうぞうできるかというわけです。日本人が我が身わ みをつねって、途上とじょう国のいたさを知ることは、とてもむずかしそうです。なぜ、日本人はこう想像そうぞう力がにぶくなってしまったのでしょうか。
7. 【7】若いわか 人が電車の中で腰かけこし  ていました。そこへ赤ちゃんをおんぶした母親が、重そうな荷物を抱えかか て乗ってきました。青年には席をつめて、腰かけこし  やすくしてあげる気配もありません。【8】この青年の心の声が聞こえてきました。「おれは満席の時は腰かけこし  たいと思ったことはない。また立っていて苦痛くつうだと思ったこともない。この母親もおれと同じ気持ちにちがいないから、心をつかうことはない∵よ」と言っているようでした。【9】わが身をつねらなくても、相手の苦痛くつうがわかる想像そうぞう力と実行力がよみがえってほしいものだと先日、思ったことでした。【0】
8.出典・稲垣いながき友美『ことわざに学ぶ生き方(東洋へん)』