1. 【1】
我が身をつねって人の
痛さを知れ
2. 自分の苦しさ
痛さを思い出して、人の苦しみや
痛みを思いやれ、ということわざです。自分自身のこととして人のことを考えよということです。古くから言い伝えられてきたことわざのひとつです。
3.【2】「同病相
憐れむ、
同憂相救う」(『
呉越春秋』)
4. 右の、特に
上の句は、聞いたことがあるでしょう。
彼も病気、自分も病気、それなら
苦痛はそのまま同じだから、そのつらさはよくわかります。【3】「つらいだろうな。自分もこんなにつらいもの」と。この言葉全体は、同じ
境遇にある者同士は、
苦痛や気持ちがよくわかり、いたわりあい助け合うことができるということです。
5. 【4】表題のことわざは、意味がちがう。
痛いのは相手の方で、自分はなんでもない。人間はそういう時には相手の
痛みになかなか
同情が持てないものです。そこで、自分も同じように
我が身をつねってみたら、というのです。【5】「
痛かったでしょう。だからあの人の
痛いこともわかるでしょう」と言っているのです。
6.
想像力の弱さが
同情心の足りなさになるのではないでしょうか。少し話が
飛躍しますが、日本人は金の力にまかせて、
発展途上国の
資源を買いあさり、原住民を苦しめていると言われています。【6】日本人自身は、さしあたって
痛まないし、どうして相手国の
痛みを
想像できるかというわけです。日本人が
我が身をつねって、
途上国の
痛さを知ることは、とてもむずかしそうです。なぜ、日本人はこう
想像力がにぶくなってしまったのでしょうか。
7. 【7】
若い人が電車の中で
腰かけていました。そこへ赤ちゃんをおんぶした母親が、重そうな荷物を
抱えて乗ってきました。青年には席をつめて、
腰かけやすくしてあげる気配もありません。【8】この青年の心の声が聞こえてきました。「おれは満席の時は
腰かけたいと思ったことはない。また立っていて
苦痛だと思ったこともない。この母親もおれと同じ気持ちにちがいないから、心をつかうことはない∵よ」と言っているようでした。【9】わが身をつねらなくても、相手の
苦痛がわかる
想像力と実行力がよみがえってほしいものだと先日、思ったことでした。【0】
8.出典・
稲垣友美『ことわざに学ぶ生き方(東洋
編)』