長文集  8月1週  ○お世辞とか外交辞令というのは(感)  ni2-08-1
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2010/06/14 14:56:36
 【1】お世辞とか外交辞令というのはいや
なものです。心にもないことを言われるのは
気持ちが悪いという人もあります。しかし、
出会いがしらに、
「お顔の色が悪いようですが、どうかなさい
ましたか」
などという親切を受けてはたまりません。【
2】たとえ、すこし顔色がさえないとは思っ
ても、
「お元気そうですね、みなさんお変わりあり
ませんか」
と言われた方がよほどうれしい。ウソを言わ
れて喜んでいる。【3】それでは深刻な人生
は送ることができないとしかられるかもしれ
ませんが、こんなところで深刻さを味わわさ
れなくて結構だというのがふつうの人の感想
です。
 【4】本当のことを言うと当たりさわりが
あって、聞く人の心に傷をつける心配がある
。お世辞だとかあいさつのことばは、ことば
を真綿にくるんで、痛みを与えないようにす
るのがやさしさになるのだということを発見
したときに生まれた生活の知恵だったので 
す。
 【5】このごろの若い人は、
 「ウソも方便」
を認めるという調査があります。【6】若い
のに世間なれしていやだね、と言う人がいま
すが、ことばに傷ついた苦い経験が重なっ 
て、人を傷つける真実よりも、傷つけないウ
ソの方がよろしいということに気がついたの
だとしたら、これはたいへんな感覚です。
 【7】このごろの若いものはことばを知ら
なくて……などと言っている年ぱいの人が案
外、「ウソも方便」ということを知らない 
で、本当のこと、あまりにも本当のことを言
って人をくさらせるのは皮肉です。【8】年
ぱいの人の方が「ウソも方便」を認める人が
すくなくなっているのです。
 われわれはどうも正直教育をうけすぎたよ
うです。いつも本当のことを言わなくてはい
けないと教えられてきました。【9】それで
ときどき正直の上になにかつくようになって
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
42
43
しまいます。
 正直な話にはしばしばとげがあります。正
直の美徳を行うのに気をとられて、そのとげ
が相手の心をつきさすことを忘れがちです。
【0】同じ正直でも、言い方によってとげが
出たり出なかったりします。∵
 いい年をした男が青年のような服装をして
あらわれたとします。
「これはまたずいぶん派手ですね」
と言えばかどが立ちます。派手であるのはま
ちがいないとして、派手だと言ってしまえば
、非難していることになります。聞いた方で
はうらみに思うでしょう。うらみに思ったこ
とばはめったに忘れないものです。同じこと
を言うにしても、
「これはまたずいぶん若々しいですね。さっ
そうとしていらっしゃる」
とすれば、言われた方では内心いい気になる
でしょう。派手ではないかとちょっぴり不安
に思っているのを、ほめてくれた、あいつは
なかなか気のきくやつだ、となるでしょう。
 毎日朝から晩まで使っていることばです。
いくら気をつけても、どうしても、とげのあ
ることばが口から出てしまいます。本人はそ
のつもりでなくても、相手が勝手に傷ついて
うらむということもあります。それをいちい
ち後悔していては生きてはいかれなくなりま
す。しかし、正直なことばには時にはとげが
あるのだということを心におけば、ことばで
人を傷つけることはずっとすくなくなるにち
がいありません。