長文集  8月2週  ★知恵がつくられる場所で(感)  ni2-08-2
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2012/06/15 08:09:23
 【1】知恵がつくられる場所である人間の
脳は、また、コンピューターなどと違って、
物事を幅をもってみつめ、考えることができ
るようにできている。つまり寛容な思考態度
をとることが人間にはできるのだ。
 【2】人間の脳にあるこの寛容性は、もの
を考える上でも発揮される。その一つは連想
である。文章、特に詩とか格言のようなもの
を読む時、その中の言葉から連想される異な
った言葉を、思いつくまま列記しておくとす
る。【3】その列記された言葉のいくつかを
組み合わせて新しい文章をつくってみる。こ
うしたあとで、もう一度、元の文章を読み直
すと、意味の理解が深みと新鮮さをもつもの
だ。連想は、言葉の意味と感じに幅をもたせ
てみるという脳の寛容性から生まれる。
 【4】このように、人がものを考える時は
、幅をもった考え方をするものであり、また
それでこそ、思考は発展性をもって深まって
いくのだ。
 【5】私は、人生には、深くものを考えな
ければならない時期があり、その深い思考力
をつちかうことも勉強の目的の一つだ、と前
にいった。これはいいかえれば、勉強してこ
そつくられる「知恵の深さ」である。【6】
勉強しない人の脳は、人間特有の幅をもった
思考のレッスンをしないから深くものを考え
る力、つまり「知恵の深さ」が身につかない
のだ。
 【7】知恵には「広さ」があり、「深さ」
があり、また「強さ」というものがある。「
知恵の強さ」とは、すなわち決断力である。
 【8】私たちが人生で当面する問題には、
クイズやテストのようにあらかじめ答えが用
意されているものはない。【9】クイズの問
題は解答を見つけるだけの問題だが、人生の
問題は、相当の時間をかけなければ問題その
ものの真意もつかめないし、とうてい真の解
決には至らない難問ばかりである。【0】だ
から、長い年月をかけて、すべ∵てを知らな
ければ何の行動も起こせないという姿勢にだ
け固執していては、この世は渡っていけない

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 医者が、現在の医学の水準ではある病気に
ついて数パーセントしか解明されていなくて
も、目の前で苦しんでいる患者に何らかの診
断をくださなければならない時があるように
、それがいかに未解決の難問であろうと、ど
こかで決断しなければならないのである。飛
躍しなければならないのである。
 人間の脳は、不連続のものから連続したも
のを導き出す寛容性をもっている、と私はい
った。いいかえれば、実は飛躍であることを
飛躍でないととらえられるのが、人間の脳で
ある。だから、人間は飛躍ができる。コンピ
ューターやロボットには、それができない。
 決断できる力、どこかでエイッと飛躍でき
る力、知恵のそういう「強さ」も、人生とは
直接かかわらないように見える勉強を積み上
げていく中で、身についていくものなのだ。
 知恵には、以上私が述べたほかにも、いく
つかの側面があるはずだ。いずれにせよ私は
、「人はなぜ学ばなければならないのか」の
答えがあるとすれば、「それは知恵を身につ
けるためだ」と、答えるほかないのである。

(広中平祐(へいすけ)氏の文章による)