長文集  9月3週  ★君たちの中には(感)  ni2-09-3
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2012/06/15 08:09:23
 【1】君たちの中には、あまり学校が好き
ではない人もいるかも知れない。
「あーあ、学校なんてきらいだなあ。いやな
科目はあるし、試験はあるし、もっと自由に
好きなことをして暮らしたいな。」
【2】「こんなふうに思っている人が、あん
がい多いのではない か? なるほど、もっ
ともな面もあると思う。たしかに、人間の社
会にはいろいろと思いどおりにならないこと
が多い。もうすこしお小遣いが多かったら、
もうすこし遊ぶ時間が多かったら、と思うの
は君たちだけではない。【3】私だってそう
だ。人間の社会にはがまんしなければならな
いことが多すぎる。
 だがこの考えは、すこしばかり身勝手な考
えだ。生活していくうえで、がまんしていか
なければならないのは、なにも人間社会だけ
に限ったことではない。
 【4】生物として、この世に命をもって生
まれてきたものはすべて、それぞれの生物社
会の一員に組み込まれる。そして、この世で
生きていくためには、すべてある程度のがま
んをしていかなければならない。【5】その
ことは密林に住む野獣であろうと、人間社会
の権力者であろうと同じことだ。
 いや人間なら、いやになれば逃げ出すこと
も、やめることもできる。だが、植物などは
生まれた場所が気に入らないからといって、
そこから逃げ出すことは絶対にできない。【
6】がまんして生きていくか死んでしまうか
、二つに一つなのだ。その意味では、植物の
世界こそもっともがまんを重ねなければなら
ないところだ。
 【7】とくに森林のように、すでに一つの
社会が成り立っている場所に生育する若い植
物は、ひたすらがまんすることが生活にな 
る。【8】シイやカシの森の中に、ヤツデや
アオキのように生活能力や生活形態がちがう
ものが生育した場合は、現実にはそれほどは
げしい争いは起きず、かえって生活の場をす
み分けて共存することがお互いのためになる
。【9】だが、たとえばシイやカシの高木林
の中に、クス、イチイガシやシラカシのよう
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に、シイやカシよりさらに高木になるような
植物が生育した場合は、高木層のすぐ下の亜
高木層まで生育して、先輩の高木が枯れて自
分たちの時代がくるまで、∵じっと待ちつづ
ける。
【0】「石の上にも三年」ということわざが
あるように人間の社会なら、せいぜい三年も
待てば、たいてい事情が変わって先が開けて
くる。ところが植物の世界では、数十年、い
や時には数百年ものあいだがまんしつづける
のだ。数多くの植物は、がまんしきれずに枯
れていき、がまんにがまんを重ねた少数の植
物だけが、じゅうぶんに生活力をたくわえ、
先輩が老衰したり、虫や風やカビなどの被害
を受けて倒れたりしたすきにすばやく大きく
なって、つぎの時代のチャンピオンになるこ
とができるのだ。
 私たちの実験でも、あきらかに競争、共存
、忍耐という、植物、いや生物社会の厳しい
ありさまは観察できた。わずか一メートル平
方の狭苦しい世界にも、お互いにいがみ合い
ながらも共存し、狭い場所をすみ分けている
典型的な生物社会が示されていたのである。
 私たち人間社会に身を置く者も、生物社会
の一員としての大きな視野から、多様な環境
的制約とそこに生きるものどうしの関係から
生ずる社会的制約をどう人間の発展に結びつ
けていったらよいか、みんなで考えてみよう
ではないか。植物社会の教訓を単なる現象と
して見すごすか、人間社会の未来のために生
かせるか、英知をもつ人間の真価を問われる
分岐点である。