長文集  4月3週  ★商社マンがカリフォルニアに(感)  nnga2-04-3
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2012/06/15 08:09:23
 【1】商社マンがカリフォルニアに出張す
ると、帰りぎわにカリフォルニア米の大袋を
何個ももって帰ってくる。なんとなく外米は
まずいという印象を日本人はもっているが、
実際には舌の肥えた商社マンたちが、わざわ
ざもって帰るほどおいしくて、しかもその値
段が日本の四分の一である。
 【2】ところで、牛肉、オレンジの次は米
を買ってくれとアメリカが要求してくるとい
うと、日本人は「まさか、冗談でしょう」 
と、おどろくばかりだ。その「まさか」の根
拠には、まず日本人にとって米がどういうも
のであるかを、当然アメリカ側がよく理解し
てくれているにちがいない、という大前提の
存在がある。【3】つまり、日本人にとって
、米は死活にかかわる問題である。米は日本
人の生命線である。しかも、米に対して日本
人は単なる穀物として以上の特別にセンチメ
ンタルな気持ちを抱いている、というような
ことを、アメリカ側は少なくとも一応のとこ
ろは承知しているはずだと勝手に思い込んで
いるわけだ。
 【4】しかし、たとえば、アーカンソーの
農民にとっては、米はごくあたりまえの穀物
の一種でしかない。大豆が儲かるのなら大豆
を、小麦なら小麦を、そしてそれらとまった
く同じ感覚で、儲かるなら米を作ろうとかれ
らは考える。【5】日本人と米とのつき合い
において、私たちが感情的になるほどの何か
が存在するなどとはかれらには想像もできな
いのだ。
 また、そのように、米といっても炭水化物
のひとつではないか、米と麦とどうちがうの
だという発想をもっているアメリカ人に対し
て、【6】一歩手前の段階に戻って実情はこ
うだと説明する努力 を、私たちはほとんど
といっていいほどしていない。
 では、このような問題を内在させている米
についてまったく別の発想を試みるとすれば
、どんなことが考えられるだろうか。【7】
現在、食管会計の赤字を黒字に転じる解決策
はまずないといっていいだろう。国民の六パ
ーセントを占める農民の生活を保証し、なお
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かつ食管会計を黒字にすることは、現在の方
針をそのまま延長していくかぎり不可能であ
る。
 【8】ところで、かりに食管会計の赤字の
およそ二年分を投資すると、アーカンソーや
カリフォルニアの豊かな穀倉地帯に、日本の
全水田面積と同じだけの水田が買える。二年
分の食管会計の赤字を投入して、二年にわた
って土地を買うと、三年目には赤字がゼロに
な∵り、そのうえ米の値段はいまの半分以下
になるだろう。【9】アメリカで水田を「経
営」するわけである。農民は流通その他をコ
ントロールする経営者となる。
 構造的な赤字解決策の試案として、このよ
うな発想は、国をひとつの大きな企業として
とらえるかぎりでは、じゅうぶんに勝算を見
込むことのできる戦略となり得る。【0】カ
リフォルニアに日本の水田面積と同じだけの
土地を買い、現地の農民を雇い、そこで経営
をはじめるとなると、利害関係の密接さとい
う点からいっても国益は私たちの方へ有利に
傾くはずである。こちらが経営者であり、ア
メリカの農民に下請けを依頼するといった図
式において、アメリカの世論を操作し得る力
をある程度もつことができる。アメリカに対
する日本の経済上の力を強めることができる
のだ。

(大前研一「世界が見える日本が見える」よ
り)