【1】Z・バウマンは、身体の統制可能と 考えられている領域を「文化」と呼び、統制 不可能と考えられている領域を「自然」と呼 んだ。さらに文化の二重の機能を指摘した。 【2】現代文化の大きな特徴は、「文化(= 統制可能)」の領域を拡大し、「自然(=統 制不可能)」の領域をせばめ、限定していく という方向性を持っていることだという。 【3】現代文化を医療技術や美容技術の発 展と拡大を含むものととらえるならば、バウ マンの考えは納得のゆくものである。それは 端的には、私たちが私たち自身の外見――身 体や衣服――について認知する場合、【4】 「変えることができるもの」に分類される領 域がより広まり、「変えることができないも の」として分類される領域がより狭まってき た、という点に現れる。【5】ダイエットの さまざまな手法の流行は体重を「変化させる のが容易ではないも の」から「容易に変化 させうるもの」へと変えた。日焼け機械の普 及は、肌の色を気軽に変化させることを流行 させた。 (中略) 【6】典型的なのはイメージ・アップの試 みだろう。たとえば、ダイエット。摂食障害 やダイエットの果ての死亡事故など、なかば 社会問題として取り扱われるようになっても なお、依然としてダイエット・ブームは続い ているし、一向に終息の方向へは向かう様子 がない。【7】このようなダイエット商品や エステティック・サロンの広告コピーには「 生まれ変わった私」「まるで別人!」といっ たことばが多用される。【8】これらのこと ばには、従来意図的に変更することが簡単で はなかったもの(=体重、体型)をある商品 を使用することによって変えることができる 、それと同時に「その人らしさ」にかかわる 「個性」ならば、より魅力的なものに変える ことができるのだ! という企てが表現され ている。【9】こうしたイメージ・アップの 企てはさまざまな商品化をともないながら、 私たちの外見のあらゆる領域に向けられてい く。 |
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消費社会とその文化は、さまざまなヴァリ エーションを持った商品を大量に供給するこ とによって、私たちが身につけるありとあら ゆるものを「着替える」ことを可能にした。 【0】さらに、手軽な形で商品化された技術 によって、身体のさまざまな部分に手を加え ることが可能になった。かつては身体的特徴 は容易には変化させるこ∵とができない、と みなされていたが、今日では投資さえすれ ば、身体的特徴を別人のように変えることも 不可能ではない。整形手術、フィットネス、 エステティック、ダイエット、髪や肌や眼の 色を変えること、歯列矯正、毛深さや太りや すい体質を改善すること、身長の印象操作な どなど。しぐさや振る舞い、ことば使いに至 るまで、各種のトレーニング・コースが用意 されている。 注意しておかなければならないのは、身体 や外見が「操作可能なもの」となってきたと しても、それはかならずしも人びとの外見の 多様なあり方にすぐさま結びつくわけではな いということである。操作可能性は個人間の 差異を矯正し、ある集団を同一の形式に統一 する方向に作用することもありうるのだ。 身体や外見に関して「着替えられる」「変 更可能な」ものだという認識を多くの人が持 つにつれて、特に女性や青年といった人たち のあいだには「着替えられるものなら着替え たい」というストレートな欲望が生ずるよう になる。そしてその欲望は、身体や外見を操 作するさまざまなタイプの商品の消費へと彼 ら・彼女らを駆り立てていく。 (千住博『美術の核心』による) |