長文集  11月4週  ○Z・バウマンは(感)  nngu2-11-4
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2010/08/24 15:45:47
 【1】Z・バウマンは、身体の統制可能と
考えられている領域を「文化」と呼び、統制
不可能と考えられている領域を「自然」と呼
んだ。さらに文化の二重の機能を指摘した。
【2】現代文化の大きな特徴は、「文化(=
統制可能)」の領域を拡大し、「自然(=統
制不可能)」の領域をせばめ、限定していく
という方向性を持っていることだという。
 【3】現代文化を医療技術や美容技術の発
展と拡大を含むものととらえるならば、バウ
マンの考えは納得のゆくものである。それは
端的には、私たちが私たち自身の外見――身
体や衣服――について認知する場合、【4】
「変えることができるもの」に分類される領
域がより広まり、「変えることができないも
の」として分類される領域がより狭まってき
た、という点に現れる。【5】ダイエットの
さまざまな手法の流行は体重を「変化させる
のが容易ではないも の」から「容易に変化
させうるもの」へと変えた。日焼け機械の普
及は、肌の色を気軽に変化させることを流行
させた。
(中略)
 【6】典型的なのはイメージ・アップの試
みだろう。たとえば、ダイエット。摂食障害
やダイエットの果ての死亡事故など、なかば
社会問題として取り扱われるようになっても
なお、依然としてダイエット・ブームは続い
ているし、一向に終息の方向へは向かう様子
がない。【7】このようなダイエット商品や
エステティック・サロンの広告コピーには「
生まれ変わった私」「まるで別人!」といっ
たことばが多用される。【8】これらのこと
ばには、従来意図的に変更することが簡単で
はなかったもの(=体重、体型)をある商品
を使用することによって変えることができる
、それと同時に「その人らしさ」にかかわる
「個性」ならば、より魅力的なものに変える
ことができるのだ! という企てが表現され
ている。【9】こうしたイメージ・アップの
企てはさまざまな商品化をともないながら、
私たちの外見のあらゆる領域に向けられてい
く。
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 消費社会とその文化は、さまざまなヴァリ
エーションを持った商品を大量に供給するこ
とによって、私たちが身につけるありとあら
ゆるものを「着替える」ことを可能にした。
【0】さらに、手軽な形で商品化された技術
によって、身体のさまざまな部分に手を加え
ることが可能になった。かつては身体的特徴
は容易には変化させるこ∵とができない、と
みなされていたが、今日では投資さえすれ 
ば、身体的特徴を別人のように変えることも
不可能ではない。整形手術、フィットネス、
エステティック、ダイエット、髪や肌や眼の
色を変えること、歯列矯正、毛深さや太りや
すい体質を改善すること、身長の印象操作な
どなど。しぐさや振る舞い、ことば使いに至
るまで、各種のトレーニング・コースが用意
されている。
 注意しておかなければならないのは、身体
や外見が「操作可能なもの」となってきたと
しても、それはかならずしも人びとの外見の
多様なあり方にすぐさま結びつくわけではな
いということである。操作可能性は個人間の
差異を矯正し、ある集団を同一の形式に統一
する方向に作用することもありうるのだ。
 身体や外見に関して「着替えられる」「変
更可能な」ものだという認識を多くの人が持
つにつれて、特に女性や青年といった人たち
のあいだには「着替えられるものなら着替え
たい」というストレートな欲望が生ずるよう
になる。そしてその欲望は、身体や外見を操
作するさまざまなタイプの商品の消費へと彼
ら・彼女らを駆り立てていく。

 (千住博『美術の核心』による)