長文集  5月2週  ★就業人口の半分以上が(感)  nnza-05-2
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2012/06/15 08:09:23
 【1】就業人口の半分以上が従事する産業
に時代を代表させ、社会の発展段階を狩猟社
会、農業社会、工業社会、情報社会と分類す
ると、現在は情報社会の盛期に位置するとい
う解釈がある。
 【2】それぞれの社会がどれくらいの期間
にわたり持続したかを計算してみると、現代
の人間の直系の祖先をネアンデルタールなど
後期石器時代の人類とすれば、狩猟社会は数
万年、農業社会は数千年、工業社会は数百年
という単位で継続し、二十世紀の中ごろから
出発した情報社会が数十年という単位で経過
したのが現在ということになる。(中略)
 【3】農業社会は特定の地域で特定の作物
が集中して栽培される単品種多生産方式が特
徴である。工業社会になると、種類を限定し
た製品を大量に生産する少品種多生産になる

 情報社会になると、工業製品であっても、
同一の仕様のものはきわめて少数しか生産し
ない多品種少生産が特徴となる。【4】情報
社会の産業のコメといわれる集積回路(IC
)の中の特定用途集積回路はその代表である
。この特徴は生産技術の進歩にもよるが、希
少であるほど価値があるという情報の性質を
反映していると理解してもよい。
 【5】この方向を発展させると、一品種一
生産という特徴が浮かび上がる。ある製品を
一品ずつしか生産しないという特徴は、産業
革命以前に逆行するかのようだが、この一品
種一生産は高度な技術に支援された方式であ
る。【6】各種の製品についてこのようなシ
ステムが実用化すれば、一品種一生産であっ
ても産業革命以前とは根本的に違う生産方式
が実現することになる。
 農業の発生と並行して集合し定住するとい
う生活形態が出現したが、それは農業が短期
に多くの労力を必要とするからであり、労働
集約生産が農業社会の特徴である。【7】工
業社会でも労力は必要だが、より重要な要素
は生産設備である。高度な設備の導入が生産
効率を向上させるため、企業が競って工場に
最新の設備を投入する設備集約生産が工業社
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会を特徴づける。∵
 情報産業の代表であるソフトウェア産業で
は状況は大幅に変化する。【8】この分野は
新規の労働集約産業といわれ、端末装置が配
置された部屋に多数の人間が集まってソフト
ウェアを生産する。しかしそれらの人間は肉
体労働をしているわけではなく、高度な知識
を駆使して知的生産に従事しており、知識集
約産業と表現するのが適切である。
 【9】次期社会の重要な産業になると期待
されているものに映像産業がある。衛星放送
やCATV(有線テレビ)の普及によりテレ
ビジョンの総放送時間数は急増し、今後十年
間で四倍程度に増加すると予測される。一部
は過去の映画などを利用するとしても、ほと
んどは新規に制作される必要がある。【0】
 この制作も多数の人間による労働集約的な
生産であるが、そこで要求されるのは農業社
会での労力でも情報社会の知識でもなく、人
間が感動したり感激したりする内容を創造す
る能力である。この能力を「感性」と表現す
れば、次期社会での産業は感性集約産業とい
うことができる。
 工業社会から情報社会に移行する時期に、
重厚長大から軽薄短小への転換という言葉が
流行した。重量や容積当たりの価格が高価な
製品に産業が移行するという現象だが、「軽
薄短小」以後は、そのような言葉では表現で
きない製品を生産する産業が登場してくる。
 次代の十兆円産業と期待される映像産業が
創造するイメージウェアは、重量で計測でき
る製品ではなく、まったく異質の価値基準で
なければ測定できず、そこで誕生してきた表
現が「美感遊創」である。
 (中略)
 終焉しつつある情報社会を代替して出現す
る感性社会では、技術は芸術も目指し、技術
者は芸術家に変身すると言えよう。

 (月尾嘉男「産業技術」による)