長文集  7月2週  ★一九七九年一月一七日から(感)  nnzi-07-2
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2012/06/15 08:09:23
 【1】一九七九年一月一七日から同年二月
九日までの朝日新聞『いま学校で』欄に、十
六回にわたって「テストの点数は人間の価値
を測る絶対的な尺度であり得るか」という問
題について、A、B両氏の紙上討論とも言え
る「往復書簡」が掲載された。【2】両氏の
主張の一部についての要旨は次のような内容
である。

A氏
 まず、人間の価値ということであるが、ど
この学校においても知育、徳育、体育の調和
のとれたことだと考えている。【3】だから
こそ、「全人教育」ということばが非難しが
たく幅をきかせているのである。その半面「
知育偏重」「受験体制」「テスト主義」など
ということばが罪悪のごとく非難されている
。【4】しかし、今までの教育を受け、受験
をし、テストを課せられてきたものが、皆、
人間性に問題があるのであろうか。
 テストはやはり必要ではないか。およそ強
制のともなわない教育などというものはあり
得ない。【5】強制がなければ自発的に知識
を身につけにくいものである。子どもを本能
のままにまかせたら遊んでばかりいて、しま
つにおえないのではないか。
 【6】十題のうち三題間違えて七点という
場合、「あなたの努力は七割でしたね。こん
どは八割、九割とがん張りましょうね。」と
いう励ましであり、評点と評価を明確に区別
する必要はない。もし競争原理を否定したら
どんな世の中になるであろうか。【7】オリ
ンピック、野球、相撲、ラグビー、政治、経
済、文化等々、社会各般の活動はみな停止せ
ねばならなくなるであろう。
 今学校では、体育の教科も他の教科も必修
になっている。体育の時間の生徒の心理状態
も学科の時間の生徒のそれも同じである。【
8】走るなら速く走りたいし、理解はできる
だけ早くしたいという気持ちは同じである。
人より速く走るな、理解は人より早くするな
というのは、根っから無理な話である。

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【9】B氏
 今の社会が貨幣を軸として回転しているよ
うに、今の学校は点数を軸として回転してい
る。テストはひんぱんにおこなわれ、そのテ
ストで一点でも多くの点数をとろうとして血
まなこになっている。∵【0】そしてこの点
数は学校を卒業した後の人生にも何らかの影
響を及ぼす仕組みになっている。
 また学校は優等生が多いか少ないかによっ
て一流、二流……と序列化され、いまの日本
の学校は小学校から大学まで単一のピラミッ
ド組織に組み込まれているが、そのピラミッ
ドを構成している一つ一つの積み石は、せん
じ詰めれば点数であり、また、今回論点の中
心となっている『テストの点数は人間の価値
を測る絶対的な尺度である』という等式(点
数=人間の価値)にほかならない。
 教育には強制が必要だという信念は、ほと
んど大多数の教育者のゆるぎない信念となっ
ているようだが、日曜画家や市民大学をここ
ろざす人が増えているように、それは人間が
強制なしに学ぶ強い本能をもっていることを
物語っている。
 教育には評価は必要であるが、評点は不必
要であるばかりでなく有害である。評点のめ
ざすところは結局は点とり競争であり、学校
を、共に学ぶ場所でなく、優勝劣敗、弱肉強
食の荒涼たる「勉強強制収容所」に変えてし
まった原因の一つである。
 それは人間は競争のみによってのみ進歩す
るものだ、という競争原理が生み出したもの
であり、この競争原理を否定しない限り、今
日の学校の荒廃をなくすことはできない。