長文集  11月3週  ★クリントンの(感)  nnzu-11-3
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2014/09/11 13:12:31
 【1】クリントンの税制案はお決まりの言
いまわしで修飾されていた。いわく、「金持
ちは富みすぎ、貧しい人は貧しすぎる」、「
彼らは不相応な報酬を得ている」、「それこ
そ公平というもの」云々。
 政治家がこのような言いまわしを使うのは
、それを望む選挙民がいるからにほかならな
い。【2】おそらく、政治家にそのような言
い方をしてもらうことで、隣人の働きをあて
にするうしろめたさが少しは軽くなるからで
はないか。自分が貪欲な人間と見られるより
は、隣人はしぼり取られて当然と見せかけて
おくほうが、たしかに気は楽だ。
 【3】ここでのキーワードは「見せかけ」
である。つまり、所得再分配といえば聞こえ
はいいが、実際には、そのようなレトリック
を本気で信じる人などいないということであ
る。所得再分配は、ときにより、ある人たち
をごまかすためのレトリックとして使うこと
はできる。【4】人によっては、それでいい
場合があるからだ。しかし、それをいついか
なる場合でも信じるという人はいないし、と
きにそれでよしとする人も、じつは心底から
信じているわけではない。本気で信じるには
、所得再分配はあまりにもおかしな話なの 
だ。
 【5】なぜここまで断言できるかというと
娘を持った経験からである。娘を公園で遊ば
せていて、私はなるほどと思った。公園では
親たちが自分の子どもにいろいろなことを言
って聞かせている。【6】だが、ほかの子が
おもちゃをたくさん持っているからといっ 
て、それを取り上げて遊びなさいと言ってい
るのを聞いたことはない。一人の子どもがほ
かの子どもたちよりおもちゃをたくさん持っ
ていたら、「政府」をつくって、それを取り
上げることを投票で決めようなどと言った親
もいない。
 【7】もちろん、親は子どもにたいして、
譲りあいが大切なことを言って聞かせ、利己
的な行動は恥ずかしいという感覚を持たせよ
うとする。【8】ほかの子が自分勝手なこと
をしたら、うちの子も腕ずくでというのは論
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
42
43
外で、普通はなんらかの対応をするように教
える。たとえば、おだてる、交渉をする、仲
間はずれにするのもよい。だが、どう間違っ
ても盗んではいけない、と。【9】まして、
あなたの盗みの肩を持つような道徳的権威を
そなえた合法政府といったもの∵は存在しな
い。いかなる憲法、いかなる議会、いかなる
民主的な手段も、またこのほかのいかなる制
度といえども、そのような道徳的権威をそな
えた政府をつくることはできない。なぜな 
ら、そのようなものはこの世に存在しないか
らである。【0】(中略)
 数年前、娘のケーリーと彼女の友だちのア
リックスも連れて夕食に出かけたことがある
。二人ともたしか六歳のときだったと思う。
デザートとして、いまアイスクリームを注文
するか、あとで風船ガムを買ってもらうか、
ということになった。アリックスはアイスク
リーム、ケーリーは風船ガムを選択した(こ
れから親になる人に。デザートを安くあげた
ければ、風船ガムもまたデザートであること
を早期教育によって認識させよう)。
 アリックスがアイスクリームを食べ終わる
のを待って、ケーリーのガムを買いに出た。
ケーリーは念願のガムにありついたが、アリ
ックスには当然のことガムはない。アリック
スは、そんなのずるいと言って泣き出した。
第三者のおとなから見れぱ、アリックスに正
当性がないのは明らかだった。彼女にはケー
リーとまったく同じ選択の機会が与えられ、
先に楽しみを味わったにすぎない。
 これと同じ問題はおとなの世界でも起きる
。ポールとピーターは青年時代に同じ機会を
与えられていた。ポールは無難な人生を選択
し一週間に四〇時間だけ働き、決まった給料
をもらっていた。ピーターは青春を新事業に
かけリスキーな報酬を求めで一日中働いた。
中年までにピーターは金持ちになったが、ポ
ールはそうならなかった。ポールはこんなつ
もりではなかったと泣くことになり、この不
平等は社会の制度がいけないからだとぼやい
た。(中略)
 では、選択の結果ではなく、機会の結果と
して収入に差がついた場合にはどう考えれば
よいか。ここでもまた、親として自分が子ど
もにどう言っているかを思い返してみてほし
い。二人以上の子どもに同時にケーキを出し
た場合、かならず「ずるいよ、こっちのほう
が小さい」という声が上がるだろう。そのと
き、もしあなたに忍耐心があるなら、「妹の
ケーキの大きさなんか気にしないで、自分の
ケーキをおいしく食べたほうがいいよ。その
ほうが、いつも人と比べっこをしないと気が
すまない子どもより、何倍もしあわせな人生
を送れるから」と言い聞かせるかもしれない