長文集  12月3週  ★今日ほとんどの人々は(感)  nnzu-12-3
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2014/09/11 13:16:46
 【1】今日ほとんどの人々は、民主主義と
市場経済、すなわち資本主義のことを、まる
で兄弟であるかのように最も自然なぺアとし
て語っている。【2】ほぼ同時に産業資本主
義と代表制民主主義が世界の隅々まで広がっ
たために、この経済と政治の二つのシステム
は完全に調和して共存している、という錯覚
を作り出してしまったのかもしれない。
 【3】しかし、蓋をあけて中を見てみれば
、民主主義と資本主義の中核をなす価値観が
、それぞれ非常に異なることは明らかではな
いか。民主主義は極端な平等を肯定している
。【4】つまり、いかに頭が良くても悪くて
も、勤勉でも怠慢でも、博識でも無知でも、
一人一票なのである。社会への貢献に関係な
く、選挙の日には、だれもが同じ「一票」を
もつのである。【5】歴史的に、この極端な
平等のシステムを擁護する支配者はほとんど
いなかった。今われわれはあらゆる人に一票
を与えている。【6】知性、富、あるいは社
会における影響力とは無関係にである。その
ようなシステムの恩恵について、かつてのジ
ュリアス・シーザーを説得しようとしたら、
どんなことになるだろう。
 【7】一方、資本主義は、極端な不平等を
肯定している。経済収益の差はインセンティ
ブの構造を作り出し、それによってだれもが
働き続け、すぐ先の未来に投資し続ける。不
平等は、健全な資本主義に必要な競争をあお
る。【8】市場経済では、富はさらに富をも
たらし、貧困はさらに貧困をもたらす。なぜ
なら、人的物的資産への投資――故に将来的
な所得――は、現在の所得によって左右され
るからだ。資本主義そのものには、平等化の
メカニズムは組み込まれていない。【9】経
済的適者は経済的不能者を絶滅させると考え
られている。実は、「適者生存」という言葉
は、一九世紀の経済学者ハーバード・スぺン
サーが作り出し、チャールズ・ダーウィンが
進化論を説明するために借用したものだ。【
0】一九世紀の資本主義についての厳しい見
解では、経済的飢餓は、この経済システムに
おいて積極的な役割を果たしていた。資本主
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義は実は民主主義など必要ないのであり、そ
れは一九世紀のアメリカに見られたように、
奴隷制と容易に共存することができるのであ
る。∵
 民主主義と資本主義は、基本的な次元で正
反対である。基本的価値が異なるにもかかわ
らず、資本主義と民主主義の共存を可能にし
たのは、先にもふれたように社会福祉と教育
への公共投資である。マルクスは、これらの
二つの要素、特に公共教育が、近代社会を強
固なものにすることを予知していなかった。
 民主的な資本主義国では、国家が市場での
結果を平等化するための措置(たとえば、累
進税など)をとり、必需品の取得を助ける(
たとえば、住宅ローンに対する特別税免除な
ど)。もはや市場に必要とされなくなった人
には、国家は年金、ヘルスケア、失業保険な
どの形で援助を提供する。そして、国家は人
々が売りものになる技能、すなわち公共教育
を習得するのを助け、そこそこの生活の糧を
得られるようにする。(中略)
 このように、二〇世紀のほとんどを通じて
、民主主義と資本主義は、相互に緊張はある
が、比較的安定したバランスの中で共存する
ことができた。第二次世界大戦後から一九七
〇年代初期にかけての生産性が上昇し賃金が
増大し国際経済が拡大し続けた資本主義の黄
金時代には、この二つのシステムのチームワ
ークは、すべての問題にとっての完璧な解決
策であるかのように思われたかもしれない。
 しかし今日では、この調和に見すごすこと
のできない亀裂が現れている。民主主義的・
資本主義的な社会システムの安定に対する圧
力は増す一方で、社会福祉も社会投資も、グ
ローバル経済、および国民経済の変化によっ
て、脅威にさらされている。スカンジナビア
諸国の経験からもわかるように、広範囲にわ
たる社会福祉制度は、理論上は理想的かもし
れないが、実際問題として、維持するのが非
常に難しいことがわかってきた。まず、所得
税五〇パーセント、それに加えて、消費税二
〇パーセント余りという形で、所得の半分を
はるかに上回る額を政府に取られるというレ
ベルまで税負担が増大し続ける。経済より急
速に成長する社会福祉制度をいつまでも保つ
ことは不可能であり、スカンジナビアでは、
この試みは限界に達しているようだ。
 レスター・サロー著「経済探検未来への指
針」より