長文集  10月1週  ○キャラ的なコミュニケーションには(感)  nnzu2-10-1
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2010/09/10 19:44:13
 【1】キャラ的なコミュニケーションには
、本来はわかりにくいのが当たり前の内面的
な人格を視覚化し、わかりやすくしようとい
う社会的要請もあると言っていい。キャラ化
は言うまでもなく人格の視覚化であり、記号
化という側面を持つ。【2】わかりにくさを
忌み嫌う現代社会においては、人間の内面さ
えも単純に記号化しないではいられないのか
も知れない。考えてみれば、アニメやマンガ
のキャラは、制作の過程でなんらかの役割を
持たされるため、他のキャラとかぶることは
あり得ない。【3】もし、キャラがかぶるよ
うであれば、それは当然、制作途上で排除さ
れる。もちろんキャラが立たないものは論外
だ。
 こうやってみると、若者たちのコミュニケ
ーションの所作は、まさにアニメ・マンガに
おけるキャラ作りの状況と極めて近いと言う
ことができる。【4】そして、まるで制作者
というメタ物語的な視点からの監視におびえ
るかのように、彼らは自分の立ち位置をいつ
も気にしながら生きているのである。
 コミュニケーションとは本来、相互の人間
関係強化へと向かうはずのものだ。【5】知
らない者同士がコミュニケーションを通じて
深く関係を構築していくというわけだ。しか
し、若者たちのキャラ・コミュニケーション
では既に相互の関係は表層的に成立してしま
っている。そして、それ以上の深入りはご法
度なのである。
 【6】関係はタテに深まることはなく、そ
の場に浮遊したまま、ヨコヘヨコヘと際限な
く広がっていく。一見内面を吐露しあってい
るかに見えるブログのコミュニケーションも
、いわば「ネタ」であり、それにお決まりの
コメントをつけるという関係が際限なく繰り
返されるのだ。【7】今の若者たちが、表層
的な関係の友だちを信じられないほど多く持
っているのは、まさにそういった関係のゆえ
だ。ここでは、コミュニケーションそのもの
がキャラになっているとも言えるのである。
 【8】キャラ化はまた、お約束のコミュニ
ケーション手法でもある。あらかじめ決めら
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れたキャラを前提に、フリとツッコミを繰り
返し、笑いを作る。若者たちのコミュニケー
ションは、基本的にその繰り返しだ。これは
、コミュニケーションを常に想定内に収める
ための技術だと言ってもいい。∵
 【9】アニメやマンガのキャラが決して決
められた以外の振る舞いをしないように、若
者たちのコミュニケーションもまた、自由闊
達な素振りをしながら、お約束の範囲を絶対
に出ないように細心の注意が払われてもいる
のだ。【0】さらに言えば、笑いはコミュニ
ケーションの広がりを防止する作用を持つ。
誰かのツッコミにみんなが笑う。また誰かが
ツッコみ、みんなが笑う。コミュニケーショ
ンはいつもそこで終わり、次には続いていか
ない。これもコミュニケーションが思わぬ展
開になることを防ぐ機能だと言っていい。
 ここでも、若者たちは生身のコミュニケー
ションのあり方に対して、ある種のおびえを
感じているように見える。「お約束」「役 
割」のないストレートなコミュニケーション
や、自分の予想を超えた未知なるコミュニケ
ーションの広がりに対する強い拒否反応があ
るのではないだろうか。
 そう考えると、若者たちにとってのコミュ
ニケーションとは、そもそも、「アニメやマ
ンガのシナリオ=お約束」の世界の中で行わ
れる儀式のようなものなのかも知れない。だ
からこそ安心して、そこに「居場所」を持っ
ていられるということなのだ。