長文集  12月2週  ★何歳から人は(感)  nnzu2-12-2
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2012/06/15 08:09:23
 【1】何歳から人は大人と呼ばれるのか、
大人とは何か。そういう議論は繰り返し起き
るようだ。従来なら「成人すれば大人」と考
えればよかったのだから話は簡単だが、最近
はその基準が曖昧になってきている。【2】
精神科の臨床の現場でも、拒食症や家庭内暴
力といった思春期の病理に基づく問題を三十
代、四十代になってから呈するケースが目に
付く。
 【3】いっぽう、十二、三歳でしっかりし
たプロ意識を持ったタレントやスポーツ選手
もいれば、「高校を出ればおばさん」と言っ
ている少女もいる。早々に「私なんてこんな
もの」と自分に見切りをつけてしまう、若者
の『早じまい感』を問題視する精神科医もい
る。
 【4】一体、誰が大人で誰が若者なのか。
その区別はとてもむずかしい。
 先にあげた「思春期の病理を抱える大人」
には、親や周囲との関係の中で激しい自己否
定に陥っているという共通点がある。【5】
「私は親に好かれていなかった」「自分なん
て生きていても仕方ない」と、彼らはつぶや
く。一方、「大人顔負けのプロ意識を持った
子供」は、自分の才能や使命をしっかり自覚
している。「もうおばさんだ」という十代も
、ある意味、「若くなければ自分には価値が
ない」と自覚しているのかもしれない。
 【6】そう考えると、健全な大人とは「今
の自分は何をすべき か」を知っている人た
ち、やや歪(ゆが)んだ大人とは「もう何も
できない」と知ってしまっている人たち、そ
して大人とは言えない人たちとは「何ができ
るか分からない、誰か教えて欲しい」と他人
に依存している人たち、と定義できるかもし
れない。【7】もちろんその場合、年齢は関
係ない。
 もちろん、子供や若者はまだ自分に何がで
きるか、分からなくて当たり前だ。何もすべ
ての若者が、幼い頃から迷わずに自分の道を
進む必要はない。【8】「何ができるだろう
」と試行錯誤したり、ときには「誰か教えて
」と周りの大人にすがったり、それは若者に
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与えられた特権であるはずだ。
 【9】ところが今は、その上の世代の大人
たちが「自分で自分の人生を自由に決められ
る時代」の特典をフル活用し過ぎて、いつま
でも∵考えたり立ち止まったり、無分別に人
生をやり直したりし続けている。【0】それ
もまたその人の自由なのであるが、彼らが問
題なのは、そうやって逡巡を続けてうまく行
かなくなったときに、「親の愛情不足が原因
だ」「指導してくれない先輩が悪いのだ」と
他者の責任にしようとすることだ。自由な決
定をするときには、それと引換えに自分で責
任を取る必要があることを、今の大人(年齢
的な意味での)は忘れてしまっている。「子
供っぽい大人」の大軍は、更にその下の世代
である今の若者、それに続く子供から、試行
錯誤や他者への依存の自由を奪っている。彼
らが「迷う自由がないならさっさと自分に見
切りをつけて、やれることをやるしかない」
と思ってしまうのも、ごく当然だ。
 もちろん、だからといって、今の三十代か
ら五十代の人たちに、「迷うな、早く人生を
決定しろ」と強制することはできない。私自
身その世代に属する一人として、仕事にして
も人生にしても未だに迷っているし、ときに
は自分の不全感を他人の責任にしたくなるこ
ともある。現代という時代が、『迷える子供
的大人』を必然的に生んでいるとも考えられ
る。
 ただ、そうやって迷うのは自由だが、その
しわ寄せが若者に行くことはあってはならな
い。迷っている大人を待たずに、しっかり自
己決定できる若者に重要なポストを与えると
いった英断を、企業や役所もどんどんすべき
だと思う。そうすれば若者達も、早々に諦め
ることなく、もっと自由に自分の可能性を伸
ばして行けるはずなのだ。
(中略)
 そして、下の世代の邪魔をしない。これが
大人の最低条件だ。それをクリアしている人
は、世の中の何割だろうか。案外、どの世代
にも同じような割合でしかいないような気も
する。小学校にも一割の大人、政治の世界に
も一割の大人、といった具合だ。もしそうだ
としたら、選挙権などの『大人にしか与えら
れていない権利』についてもいつか見直しが
必要、といった時代も、冗談ではなく来るの
ではないだろうか。

(香山()リカ「若者の法則」より)