1. 【1】「泣きながらごはん食べると、おいしくない」。小さいとき、どこかでそんな歌を聞いた。
2. 歌の
内容は、もうすっかり
忘れてしまったのだが、そのワンフレーズだけはよく覚えている。きっとその当時から、「それはそうだなあ」と実感し、
納得していたのだろう。
3. 【2】両親にしかられたり、友達とけんかをしたり、先生にお説教をされたりしたあとに食べるご飯は、
確かにおいしくない。悲しいとかくやしいとか、そんな重苦しいものが
お腹にズウンとつまっているようで、
食欲すらわいてこないこともある。
4. 【3】もしかしたら、どんなに
嫌な気分でいても、ご飯を食べているうちに
忘れていって、
満腹になったらケロッとしてしまう明るい
性格の人もいるのかもしれないが、大多数の人はそうではないだろう。【4】つまり「おいしい」とか「まずい」というのは、食べ物そのものより、自分の心の持ちようで変わるものなのかもしれない。
5. そういえば、こんなこともあった。前、
沖縄へ旅行をして、海辺でゴーヤチャンプルーを食べたときのことだ。【5】
新鮮な感じがして、とてもおいしかった。それをもう一度味わいたくて、帰ってから母にゴーヤチャンプルーを作ってほしいと
頼んだ。
6. しかし、いざそれが
我が家の
食卓に乗り、一口食べてみたら、なぜかそれほどおいしくは感じられなかった。【6】いや、はっきり言うと変な味だと思ってしまった。
7. せっかく作ってくれた母に悪かったので、全部食べたが、「こんな味だったっけ?」と首をかしげたくなったものだ。
8. 【7】今思うと、
沖縄の海で思いきり泳ぎ、
お腹を空かせて、美しい海を
眺めながら食べた、という
雰囲気が、おいしさを
倍増させたのだろう。
9. やはり、よい気分で食べるご飯はおいしい。楽しい気持ちでいると、不思議と
お腹も空く。∵
10. 【8】この間の給食のとき、友達が面白い話を連発して、大笑いをした。まるで
お腹がよじれるようで、
絶対に
吹き出してしまうから、
牛乳を飲むことができなかったほどだ。
11. ただし、そのとき食べたものの
肝心の味がどうだったかということは、実はあまり覚えていない。【9】というより、友達とのおしゃべりが面白すぎて、何を食べたかも思い出せないのである。
12. 「笑いながらごはん食べても、おいしいとは
限らない」。ふと、そんな言葉が頭に
浮かんだ。でも、笑いながらごはんを食べれば、
お腹も心も
満腹になる。これからも、そんな楽しい食事をしていきたい。【0】
13.(言葉の森長文作成委員会 ι)