1. 【1】
天井と
床がひっくり返って、
天井が近づいてきた。一秒、二秒、三秒……、自分で数を数える。八秒。体の力が
抜けた。またひっくり返って、今度は
床が近づいた。同時に
僕は思った。
2.「これで
大丈夫だ。目標を達成したぞ!」
3. 【2】夏休みの課題の中で、
僕の体にいちばん重くのしかかっていたのは「八木節に向けての体力作り」だった。
4. 八木節とは、
団体でやるダンスの
演目だ。その中に、両手と両足を使って
仰向けのまま体を持ち上げ、ブリッジをする場面があった。
5. 【3】
僕は太っていて体が重いので、これは大変な作業だった。なにしろ、これまでやってきたブリッジでは一度も
肩が上がらなかった。そのほかは
確実にやりきる自信があったが、ブリッジは苦手だった。【4】しかも、八木節は、運動会と
三ツ沢競技場での発表会と、二回も
踊らなくてはならない。不安は積もっていくばかりだった。
6. そんなわけで、
僕は母にコツを教えてもらおうと思った。母は
趣味でダンスをやっていたので、体の動かし方というのをよく知っていた。
7. 【5】母によると、重要なのは手のつき方だそうで、
僕は正しいつき方をしていなかったらしい。だが、母に教わった手のつき方をしても、頭はまだ上がらない。なんとか頭をついたままのブリッジだけはできるようになったので、運動会では仕方なく頭つきでやった。【6】成功したが、満足はできなかった。
8.
僕は、
三ツ沢競技場の発表会までに、なんとかブリッジを
完璧にしたいと思った。頭つきだと、どうしても
肩が下がり気味で、「へ」の字型のブリッジになってしまう。
僕は、もっときれいにやりたかった。∵
9. 【7】練習あるのみと思った
僕は、体育のときも頭をつかないブリッジにチャレンジしてみたが、やはり
途中で
倒れてしまうのだった。
10.
僕は、学校から帰るときも、歩きながらどうしたらいいか考えた。
11.「できないわけはない。今度は手と足に全力を
込めてやってみよう。」
12. 【8】こう前向きに考えたのがよかった。
13. 家に帰ってカバンを置くと、さっそく考えたとおりにやってみた。
仰向けに
寝て、手を正しくつく。一度
深呼吸をして、手足にぐっと力を入れ、一気に
伸ばした。
肩がまったく
床から
離れようとしてくれない。【9】手に満身の力を
込めた。それでも
肩は上がらなかった。
14.「できないわけない。」
15. 自分を
励ましながら、必死に体を持ち上げた。だんだん
天井が近づいてくる。そして、ついに
肩が
床から
離れた感じがわかった。目標を達成できたのだ。
16. 【0】起き上がったとき、まるで世界そのものが自分の体とともに一回転して、がらりと変わったような気がした。
17. 人間は、目標を達成することで大きな自信をつけることができる。だが、そのためには、その目標をどうしても達成しようとする
意志の力が必要だ。「
意志のあるところに道がある」。
僕は、英語の先生に教わったことわざを思い出した。
18.(言葉の森長文作成委員会 ι)