長文集  5月4週  ○地球上の二酸化炭素は  ra-05-4
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2015/03/15 14:27:27
【長文が二つある場合、読解問題用の長文は
一番目の長文です。】
 書物はいつの世にもゆっくりと読むべきも
のだと私は思う。こんなにも本がたくさん出
ているのに、と言うかもしれない。しかし、
同じようにレコードだってたくさん出ている
。展覧会も至る所で開かれている。だからと
いって、音楽を能率的に聴き、絵画を急いで
見る人はいまい。それなのに、こと本に関す
る限り速読を目指すのはどういうわけなのだ
ろう。おそらく、書物というものが鑑賞する
というより知識の伝授の媒体と思われている
せいであろう。確かに本とレコードでは違う
。本のほうがはるかに多目的である。鑑賞す
るというよりは、情報を得たいために読まれ
る本のほうがずっと多いだろう。そんなこと
は十分承知の上で、なおかつ、私は遅読(ち
どく)を勧める。 
 速く読むということは一見能率的のように
思えるが、結局は損をすることになる。私も
必要に迫られて急いで読まざるを得ないこと
がある。ところが、急いでよんだ本に限って
、あとに何も残っていない。そこで、もう一
度読み直さなければならないことになる。そ
して、改めてゆっくり読み直してみると、最
初に読み飛ばしたそんな読書が何の意味も持
っていないどころか、全く読み違えていたこ
とに驚くのである。こうなると、速読するよ
りは読まないほうがましである。なぜなら、
誤解は無知よりも有害だからである。
 そんなことを言っても、必要に迫られて読
まなければならない場合が多いではないか、
と言うかもしれない。しかし、必要に迫られ
たらなおのことゆっくり読むべきである。必
要に迫られる以上、あくまで誤解は許されな
いからだ。たとえ明日までにどうしてもこの
一冊を読み上げねばならないという必要に迫
られた場合でも、ゆっくりと読み、読めると
ころまで読んで本を閉じたらいい。そのほう
が、いい加減に斜め読みをするよりは、はる
かに得るところが大きい。
 遅読(ちどく)を勧めるもう一つの理由は
、いくら速く読んでみたところでたかが知れ
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ているということである。どんなに速読の技
術を身に付けたところで、二倍のスピードで
読めるものではない。仮に二倍の速度で読め
たとしても、そうした速読から読み取ること
ができるのは、ゆっくり読んだときの二分の
一に過ぎない。つま り、半分しか読み取ら
ないのだから二倍の速さで読めるわけだ。し
かも、その半∵分が前に述べたように誤読に
陥りやすいとすれば、速読というものがいか
に無意味であるかに気付くであろう。実際、
本というものはそんなにたくさん読めるもの
ではない。わずかな本しか読めないからこそ
、何を読むかその選択が大切になる。つま 
り、ゆっくり読むことは、それだけ良書を選
ばせる効果を持つのである。
 わずかな本しか読めなかったなら、それだ
け視野は狭くなり、とても現代に追い付いて
いけないと言うかもしれない。確かにそうい
った不安が現代人を速読へと駆り立てている
。だが、そんなことは決してない。十冊読む
人よりも五冊読む人のほうが視野が広く、立
派な見識を身に付けているというようなこと
はざらにあるのだ。読書の価値は何冊読んだ
かで決まるのではなく、どんな本をどのよう
に読んだかで決まるのである。
 私は、読書とは「葦(よし)の髄から天井
をのぞく」ことだと思っている。ふつうこの
言葉は、そんなちっぽけな穴から天をのぞい
てみても、広大な天のほんのわずかな部分が
見えるだけだ、とその視野の狭さを笑ったも
のと解されている。確かにそういう意味だろ
う。しかし、実際にのぞいてみると分かるが
、葦(よし)の髄からでも結構天は仰げるの
である。いや、むしろ小さな穴からのぞいた
ほうが対象がよく見えることも多い。 
とにかく、本はゆっくり読むに限る。ゆっく
り読めば一冊の本はどれほど多くを語ってく
れることか。読書とはただそこに書かれてい
ることを理解するという単純な作業なのでは
なく、いかにして、書物により多くのことを
語らせるかという技術なのである。それは、
優れたインタビュアーが相手からおもしろい
話を十分に引き出すことができるようなもの
だ。性急な読書では本は何も語ってくれはし
ない。仮にその内容を要領よくつかんだとし
ても、ただそれだけの話である。それでは本
を読んだというより、本をつかんだというに
過ぎない。
 読書とはあくまで著者と読み手の対話なの
である。読み手が時間をかけてゆっくりと問
いかけなければ、著者は、それこそ通り一遍
の答しかしてくれないのである。

(森本哲郎「遅読(ちどく)術」)∵
 【1】地球上の二酸化炭素は、大気と陸地
、海洋とのあいだを出入りしています。
 陸地の植物は、光合成による無機物からの
有機物生産(総一次生産といいます)の結果
、一年に炭素換算で一二〇〇億トンの二酸化
炭素を大気からとりこんでいますが、同時に
呼吸のために一一九六億トンを排出していま
す。【2】森林破壊などの土地利用変化で一
六億トンを排出していますが、植林などをふ
くむ陸地での吸収で二六億トンの炭素を大気
から固定しています。つまり陸地では、降水
中の炭素量二億トンもふくめて一六億トンを
大気からとりこんでいることになります。海
洋は、さしひき一六億トンを大気から吸収し
ています。
 【3】一方、石油、石炭など化石燃料の燃
焼によって、六四億トンの二酸化炭素が排出
されますが、吸収はありません。その結果、
自然のバランスをこえて、さしひき三二億ト
ンの炭素が排出されて大気中の二酸化炭素を
増やしつづけ、これが地球温暖化をひきおこ
しているとみられます。
 【4】バイオマスは、木を切って燃やして
二酸化炭素を排出しても、植林をすれば、い
ずれはまた、大気中の二酸化炭素を光合成で
固定します。このようにバイオマスは、大気
の炭素量に影響をあたえないことから、カー
ボン・ニュートラルであるとみなされていま
す。【5】バイオマスは、温室効果ガスの排
出がないカーボン・ニュートラルなエネルギ
ー源として、地球温暖化対策の重要な柱のひ
とつになっています。
 世界の多くの国々は、バイオマスのエネル
ギー利用で二酸化炭素の排出を減らす政策を
すすめています。【6】二〇〇二年の「持続
可能な開発に関する世界首脳会議」では、今
後の実施計画のなか で、バイオマスをふく
む再生可能エネルギーの利用促進が合意され
ました。
 日本でも、同年に政府がバイオマス・ニッ
ポン総合戦略を作成して、各地にバイオマス
タウンをつくるなど、バイオマス利用をすす
めています。
 【7】バイオマスは太陽エネルギー、小水
力、風力、地熱などとならんで日本では新エ
ネルギーとよばれ、化石エネルギーや原子力
に対して新しいエネルギー源とされています
が、もともとこれらのエネ∵ルギーは昔から
使われてきたものを新しい技術でより効率よ
く、多様な形で利用しようとするものです。
 【8】消費してもつぎつぎとまた生みだす
ことができる資源を、再生可能資源とよんで
います。再生可能エネルギー源は、バイオマ
スのほかに太陽光や風力、水力などいろいろ
な自然エネルギーがありますが、工業原料に
もなるのはバイオマスだけなので、エネルギ
ーと原料と二重に期待されているわけです。
 【9】海外でも、バイオマスは化石エネル
ギーの消費を減らす重要な柱とみなされてい
ます。国際エネルギー機関(IEA)は、二
〇二〇年の世界エネルギー需要予測をしてい
ます。図のように、バイオマスと廃棄物の割
合は、世界のエネルギー需要の約一〇%にな
っています。【0】図では、太陽エネルギー
、風力などがその他の再生可能なエネルギー
になっており、バイオマスも化石系のものを
ふくむ廃棄物といっしょにしめされています
。そして、再生可能エネルギー全体のなかで
は、バイオマスが約七五%を占めることにな
ると予測されています。
 バイオマスを生かすには、その特性をフル
に利用することが大切です。物質としてくり
かえし使えばそれだけ、生産に投入したエネ
ルギーはより有効利用できますし、うまく組
み合わせると全体としての経済性も高まりま
す。
 バイオマスの強みを生かして、日本の資源
を徹底的に活用し、化石資源を節約して、地
球環境をよくしたいものです。

(木谷収『バイオマスは地球環境を救えるか
』による)