長文 1.2週
1.こどもたち

2.【1】こどもたちの視るものはいつも断片
3.それだけではなんの意味もなさない断片
4.【2】たとえ視られても
5.おとなたちは安心している
6.なんにもわかりはしないさ あれだけじゃ

7.【3】しかし
8.それら一つ一つとの出会いは
9.すばらしく新鮮しんせんなので
10.こどもたちは永く記憶きおくにとどめている
11.【4】よろこびであったもの 驚いおどろ たもの
12.神秘なもの 醜いみにく ものなどを

13.【5】青春があらしのようにどっと襲っおそ てくると
14.こどもたちはなぎ倒さ  たお れながら
15.【6】ふいにすべての記憶きおく紡ぎつむ はじめる
16.かれらはかれらのゴブラン織りをはじめる

17.【7】その時に
18.父や母 教師や祖国などが
19.海蛇うみへびや毒草 こわれたかめ ゆがんだ顔の
20.イメージで ちいさくかたどられるとしたら
21.それはやはり哀しいかな  ことではないのか

22.【8】おとなたちにとって
23.ゆめゆめ油断のならないのは
24.なによりもまず まわりを走るこどもたち
25.【9】今はお菓子 かしばかりをねらいにかかっている
26.この栗鼠りすどもなのである【0】

27.(『茨木いばらぎのり子詩集』より)