内部からくさる桃 【1】単調なくらしに耐えること 雨だれのように単調な…… 【2】恋人どうしのキスを こころして成熟させること 一生を賭けても食べ飽きない おいしい南の果物のように 【3】禿鷹の闘争心を見えないものに挑むこ と つねにつねにしりもちをつきながら 【4】ひとびとは 怒りの火薬をしめらせてはならない まことに自己の名において立つ日のために 【5】ひとびとは盗まなければならない 恒星と恒星の間に光る友情の秘伝を 【6】ひとびとは探索しなければならない 山師のように 執拗に 「埋没されてあるもの」を ひとりにだけふさわしく用意された 「生の意味」を 【7】それらはたぶん おそろしいものを含んでいるだろう 酩酊の銃を取るよりはるかに! ∵ 【8】耐えきれず人は攫む 贋金をつかむように むなしく流通するものを攫む 内部からいつもくさってくる桃 平和 【9】日々に失格し 日々に脱落する悪たれによって 世界は 壊滅の夢にさらされてやまない【0】 (『茨木のり子詩集』より) |
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