長文集  2月4週  ○私たちは生きていく中で  re2-02-4
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2010/10/22 11:19:07
 【1】私たちは生きていく中で私たち自身
の「生きる意味」を変化させていく。人生地
図の濃淡の具合が変わっていくのだ。例え 
ば、小さいときはお母さんが世界の中心で、
学校に行きだすと友達が大切になり、【2】
その後バンドにはまった青春期が続き、就職
したら仕事がものすごく面白くなり、しかし
「釣り」と出会ってからはそれがもう一生の
友……といったように、私たちはひとりひと
り別々の「生きる意味」の遍歴を持っている
ものだ。【3】そし て、その「生きる意味
」の歴史は積み重なり、人生経験となって私
たちの生きる意味をさらに深めていく。私た
ちの人生とは、「生きる意味」の成長ととも
にあるのである。
 ところが、私は何の「内的成長」もなかっ
たと自分自身を振り返る人もいる。
【4】「私は結局ずっと人の目を気にして「
いい子」をやってきたんだと思います。小さ
いときは親にとっての「いい子」そのもので
した。クラスでもいつも優等生でしたが、そ
れも先生や友達の前で「いい子」をやってい
たのだと思います。【5】それから「いい 
妻」になり「いい母」になりました。だから
周りの人はみんな「よくできた人だね」って
言うんですよ、私のこと。でも、このごろ気
づいたんです。私って小さいときから成長し
てないって。いつも周りの人の目を気にして
「いい子」をやり続けてきた。【6】もしか
したら子どものままなんじゃないかって」。
 彼女は人生でたくさんのことをやってきた
はずだ。学校では優等生だし、友達にもきっ
と優しかったことだろう。絵に描()いたよ
うな幸せな家庭を築いてきたのかもしれない
。【7】しかし、周囲からは幸せそのものと
見えていても、本人が悩んでいるということ
はよくあることだ。私は何か不自由だ。自分
自身が自分でないような気がする。【8】そ
して、その不満に直面し、自分の人生を見つ
め直したとき、自分はいろいろなことをやっ
てきたけれども、「生きる意味」においては
全く成長していなかったのではないか、常に
「人の目を気にするいい子」を生きてきたの
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ではないかと気づく。【9】そしてそこから
彼女の人生の転機が始まるのだ。
 人生の「創造性」、それは、私たちが常に
新しい「生きる意味」に開かれて生きている
ことを意味している。私たちが「生きる意 
味」の創造者であり、人生の節目節目で「生
きる意味」の再創造を行うことができること
、それが人生の創造性なのだ。
 【0】それは「あなたがこの社会で創造性
を発揮すれば、その 分、あ∵なたに報酬が
得られるような、創造的な社会にしましょ 
う」といった、一見「創造的」に見えながら
「閉ざされた意味」へと駆り立てていくよう
な、閉じた「創造性」とは違う。小さいとき
から、最大限効率的に生きることをたたき込
み、一生自分が効率的かどうかチェックしな
がら生きるような社会は、実は創造性を欠 
き、「内的成長」をもたらさない社会なのだ

 私たちの社会はもはや物質的には十分豊か
だ。いま真に求められているのは、生きるこ
との創造性、「内的成長」の豊かさなのであ
る。
 さて、そうした「内的成長」のきっかけと
なるものは一体何だろうか。言い換えれば、
私たちはどうやって私たちの「生きる意味」
に気づくのだろうか。いま私が真に求めてい
るものにどのように出会うのだろうか。
 それは私たちひとりひとりが、二つのもの
への感性を研ぎすますことから始まる。それ
は、「ワクワクすること」と「苦悩」の二つ
である。

 (上田紀行「生きる意味」による)