長文 3.1週
1.ぎらりと光るダイヤのような日
2.【1】短い
生涯
3.とてもとても短い
生涯
4.六十年か七十年の
5.【2】お
百姓はどれほど田植えをするのだろう
6.コックはパイをどれ位焼くのだろう
7.教師は同じことをどれ位しゃべるのだろう
8.【3】子供たちは地球の住人になるために
9.文法や算数や魚の生態なんかを
10.しこたまつめこまれる
11.【4】それから品種の改良や
12.りふじんな権力との
闘いや
13.不正な裁判の
攻撃や
14.泣きたいような雑用や
15.ばかな戦争の後始末をして
16.【5】研究や精進や
結婚などがあって
17.小さな
赤ん坊が生まれたりすると
18.考えたりもっと
違った自分になりたい
19.欲望などはもはや
贅沢品になってしまう
20.【6】世界に別れを告げる日に
21.ひとは一生をふりかえって
22.じぶんが本当に生きた日が
23.あまりにすくなかったことに
驚くだろう
24.【7】指折り数えるほどしかない
25.その日々の中の一つには
26.
恋人との最初の
一瞥の
27.するどい
閃光などもまじっているだろう
28.∵
29.【8】「本当に生きた日」は人によって
30.たしかに
違う
31.ぎらりと光るダイヤのような日は
32.【9】
銃殺の朝であったり
33.アトリエの夜であったり
34.果樹園のまひるであったり
35.未明のスクラムであったりするのだ【0】
36.(『
茨木のり子詩集』より)