リンゴ2 の山 7 月 2 週 (5)
★「近ごろの若いものは……」(感)   池新  
 【1】「近ごろの若いものは……」などという言いまわしがあります。これは、おそらく、はるかな大昔からつづけられてきた繰りごとでしょう。【2】現在しぶい顔をして、そんな文句を言っている人でも、かつて若かったころには、自分の親父とか先輩などに、さんざんそう言って罵られてきたにちがいないのですが、そのくせ、こんど自分の番になると、やはり同じような言葉づかいで、新しく出てくるものをさまたげようとしています。【3】自分では正直に良心的に、むしろきわめて好意的に判断しているつもりでも、新しくおこってきたものが危険に見えてしかたがないものです。
 【4】ところで、そこが問題です。新しいものには、新しい価値規準があるのです。それが、なんの衝撃もなく、古い価値観念でそのまま認められるようなものなら、もちろん新しくはないし、時代的な意味も価値もない。【5】だから、「いくらなんでも、あれは困る」と思うようなもの、自分で、とても判断も理解もできないようなものこそ、意外にも明朗な新しい価値をになっている場合があるということを十分に疑い、慎重に判断すべきです。
 【6】たとえ未熟でも若いということは生命的にのぞましいことです。いくら年のコウ、亀のコウを鼻にかけ、若いものを見さげても、やはり年寄りだと言われるといやな気がするし、若いと言われればおせじだとわかっていてもうれしくなる。【7】若いということは、無条件にいいことだと考えてよいのです。そして、若さこそ二度と取りかえせないものです。若いものの言動が気になるのは、それに対する絶望的な一種のやきもちであり、ひがみ根性だと考えるべきです。【8】「近ごろの若いものは……」などと、かりそめにも言いたくなりだしたら、それはただちに老衰の初期兆候だと考えて、ゆめゆめ口には出さず、つつしんだほうがお身のためだと忠告しておきます。
 【9】尊敬すべき老人にたいしては、やや苛酷で乱暴なものの言い方をしたようですが、しかし私がここで年寄りというのは、けっして、たんに年齢的な意味ではないのです。【0】若さというのは、その人の青春に対する決意できまります。いつも自分自身を脱皮し、固定しない人こそ、つねに青春をたもっているのです。現在、権威にされているものでも、かつて、古い権威を否定したときの情熱をもちつづけ、さらに飛躍して自分自身と時代をのりこえて進んでいる∵場合には、その人はうち倒される古い権威側ではなく、若さと新鮮さの陣営にあるのです。また、いくら年齢的に若くても、妙に老成し、ひねこびて固まっている人もいます。大きく歴史的に見れば、若い新しい世代が古い世代をのり越えていくことはたしかですが、個々の場合は、かならずしもそのとおりには当てはめられません。くれぐれも肝に銘じてほしいのは、年功が無意味であると同じように、また、たんに年齢的な若さもけっして特権ではないということです。

(岡本太郎『今日の芸術』による)