長文集  10月1週    ru-10-1
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2014/09/04 14:39:37
 【1】地球は、水の惑星と言われるように
、表面の七十パーセントが水でおおわれてい
る。「湯水のように」というたとえが使える
のは水の豊富な日本だけのようだが、誰でも
日常的に接しているこの水が、実はきわめて
不思議な性質を持っている。
 【2】〇度で固体になり、百度で気体にな
る水は、地球の大きな循環を支えている。こ
の支える力の秘密は、水が自在に形を変える
というその性質にある。環境に合わせて形を
変えることが、世界を潤す力になっているの
である。
 【3】人間もたぶん、この水のように周囲
に合わせて自在に形を変えることで、周囲を
潤す力を持つことができる。
 例えば、ディベートということを考えてみ
よう。欧米では、意見を闘わせることによっ
て相互の意見が進歩すると考えられている。
【4】弁証法では、ある意見Aとある意見B
が対立することによって新しい意見Cが生ま
れると考える。
 日本人は、これとは反対に対立を避ける。
あたかも水のように、相手がAと言えば、「
Aもわかる」と答え、相手がBと言えば、「
Bも理解できる」と答える。【5】AもBも
、仏教もキリスト教 も、欧米では本来両立
しないと考えられたであろうあらゆるものを
のみこんで、深い湖のように豊かになってい
ったのが日本文化である。
 【6】日本語のもともとの出発点にも、日
本文化の水のような性質が発揮されている。
日本は巨大な中国文化圏の辺境に位置してい
たために、中国からの影響を絶えず受けてい
た。【7】しかし、同じ立場にある他の多く
の民族が、自らも漢字を採用するか、あるい
は漢字という言語を拒否して独自の言語に留
まるかどちらかの選択しか持たなかった中で
、日本だけは長い年月をかけて、平仮名、片
仮名、音訓読み、漢字かな交じり文という独
自の創造的な受け入れ方を生み出した。∵
 【8】この水のような性質こそ、これから
の世界に最も求められているものではないだ
ろうか。
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 自己主張ということは確かに大切だ。特に
日本人は、相手に合わせすぎるという批判も
ある。【9】しかし、狭い地球の中で、岩や
石のようにぶつかり合う個性だけが充満して
も、地球は息苦しくなるだけだろう。
 水のように自在に形を変える柔軟さが世界
を潤すとしたら、日本人や日本文化の水のよ
うな性質も、改めて見直す必要があるのでは
ないだろうか。【0】

(言葉の森長文作成委員会 Σ)