長文集  11月1週  ★時計を選ぶときには(感)  ru-11-1
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2016/09/14 14:31:07
 【1】時計を選ぶときにはいろいろな選択
肢があるが、文字盤がアナログかデジタルか
で選ぶというのもある。液晶式デジタルウオ
ッチが世の中に登場したのが一九七二年。【
2】時計の表示方式の革命といわれたように
、選択肢が一気に広がり、以後、デジタルウ
オッチは電子製品の特徴である、量産化によ
る大幅な経費消滅で急速に市場を広げていく

 【3】一九七九年と八〇年の二年間の日本
の時計生産ではデジタルがアナログを上まわ
るほどにまで成長したが、今度はその反動で
「アナログ回帰」現象が急に起こり、九〇年
にはデジタルの比率は二割にまで落ち込んで
しまった。【4】その後デジタルに魅力的な
製品が開発され、最近は国内市場の三割程度
がデジタル時計と考えられる。
 情報として考えるならば、デジタルは、細
分化された「断片的情報」である。【5】よ
り正確な情報をドライかつ明確に表示するこ
とには優れているが、前後との関連や全体の
なかでの位置づけを表すことには不向きだ。
一方のアナログは、「情緒的情報」ともいわ
れるように、全体の傾向や位置づけを表すの
は得意だが、細かい部分を見るにはわかりに
くい。【6】グラフでいえば、円グラフや折
れ線グラフがアナログ情報である。
 では、時計の表示としてはどうであろうか
。アナログ時計は瞬時におおまかな時刻を読
み取ることと、残り時間を算出しやすいとい
う点で優れており、デジタル時計は正確な時
刻を表示する点で勝っている。
 【7】面白いもので、人から時刻を聞かれ
たときにアナログ時計をしていると「一〇時
半」と答える人が、デジタル時計をしている
と「一〇時二九分」、場合によっては「……
四五秒」と秒数までも答えてしまう。【8】
アナログ情報は読み取るときに頭の中の思考
回路を働かせないと答が出せないのに対して
、デジタル情報は表示の数字を読みあげるだ
けですむからである。残り時間を出す場合、
アナログ時計は見ただけで認識できるが、デ
ジタル時計は頭の中で逆算しなければならな
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い。
 【9】もっとも、時計が60進法を採って
いるためにデジタル派はいっそう不利になっ
ている。とくにわれわれ日本人は算用数字イ
コール10進法という固定観念が強く働いて
しまうのかもしれないが、10:59の次が
10:60にならずに11:00になるの 
は、頭ではわかっていても実感がともなわな
い。【0】デジタルだと、「まだ時間がある
」ような錯覚におちいって話しこんでいるう
ちに、次の∵約束に遅れてしまったりするの
は、そのためだ。
 では、表示以外については、デジタルとア
ナログでどう異なるのか。
 アナログ時計には針を動かすための歯車が
あり機械部分が残っているが、デジタル時計
は「全電子時計」と呼ばれるように、機械的
動きの部分がまったくない。したがって部品
点数が少なくなる(自動巻きの機械式腕時計
では一四〇点前後あった部品が二〇?三〇点
ですむ)ので、安く、かつ軽くなる。正確で
安い経費の時計をつくるにはデジタルが最適
だ。
 一方、アナログ時計の最大の利点はデザイ
ンの多様性だ。デジタルの数字のようにデザ
イン上の制約がないので、丸型にも角型にも
できるし、文字盤一面に模様を入れることも
できる。したがって、スポーティ感覚のデザ
インでも、高級感あふれるドレスウオッチで
も思いのままだ。宝飾時計の分野などはアナ
ログ時計の独壇場といえる。
 近年デジタルウオッチが盛り返してきたの
は、その頭脳である大容量のLSI(大規模
集積回路)の価格が下がってきたために安い
経費で調達できるようになり、メモリー(記
憶)機能やセンサー(感知)機能が加わって
、これまでのウオッチの概念を超えるユニー
クな多機能ウオッチが登場したためだ。この
ような機能を発展させていくと、腕につけて
いるだけで時計が体温、血圧、脈拍などを測
り、定期的にかかりつけの病院へ情報を送信
し、異常があると呼び出し機能で呼び出され
る……などという日も近いかもしれない。(
中略)
 アナログウオッチも変わってきている。頭
脳にIC(集積回路)を使うようになっただ
けでなく、近年はそのICに演算処理機能を
もたせた時計が実用化している。これによっ
てアナログ時計でありながら時と場合に応じ
て、ストップウオッチやタイマーなど別時計
を同じ文字盤に表示する多機能のアナログ時
計ができたのである。もちろん、元に戻せば
、正しい時刻が表示される。まさにデジタル
の頭脳をもったアナログ時計だ。
 時計のエレクトロニクス(電子工業)化が
デジタルウオッチを生み、アナログ時計にも
便利なものが登場した。人間の脳にも右脳と
左脳があるように、時計のデジタルとアナロ
グも共存共栄で発展していくことだろう。 
(織田一郎()の文章による)