長文集  11月4週  ○かつて映画について(感)  ru2-11-4
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2010/09/10 19:41:52
 【1】かつて映画について教える大学なん
てなかったにもかかわらず、今日では多くの
大学で映画の講座があり、多くの教授がそこ
で教えている。その教授たちは、大学を出た
にもかかわらず、映画に関しては独学をした
のである。【2】このように、学問の新しい
分野が開発される時期には、その学問をやる
人たちというのは、大学を出ているといない
とにかかわらず、独学をしなければならない
わけである。民俗学とか文化人類学といった
、歴史の浅い学問もしばしばそうである。お
なじことが、じつは歴史の古い既成の学問に
ついても言える。【3】師匠から習ったこと
を、弟子が、そっくりそのまま、そのまた弟
子に教えてゆくような範囲では、学問は師匠
なり学校なりを必要とするものだと言えるだ
ろうが、師匠から習ったことを一歩でも超え
ようとすると、そこからはどんな学者でも独
学をしなければならない。【4】なにしろ、
まだ誰にもわかっていないことを学ぼうとす
るわけだから、独学するより仕方がないので
ある。その意味では、一流の学者はすべて独
学者だ、ということも言える。
 【5】もっとも、こう言うと、それは、師
匠からすでにわかっている範囲の知識を目い
っぱい教えてもらった者だからこそ、それを
さらに超えてゆくこともできるので、はじめ
から師匠を持たない者にとってはそれどころ
ではない、と言われるであろう。【6】師匠
からすでにわかっている範囲の知識を目いっ
ぱい教えてもらった者は、それ以後、いくら
独りで研究をすすめても、いわゆる独学者と
は区別されるんだ、と。たしかにそれはそう
である。【7】ある種の学問は、すでにわか
っている知識の概略を教えてもらうだけでも
たいへんで、ある程度の知識がないとそこか
ら先、一人だちして進むことはできないとす
ると、独学はとても無理、ということにもな
る。数学とか物理学とか医学などという学問
にはそういう面が大きいと思う。【8】しか
し、学問というものはすべてがそういうもの
だとはかぎらない。立派な学者たちが多数、
営々として苦労を重ねているのに、その結果
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として書かれた論文には、素人にも容易にそ
の欠陥がわかるものが多い、というような学
問分野も広大にあるのである。【9】それら
の学問の中でも、部分的には素人では歯がた
たない程度に研究のつみ重ねの進んでいる個
所もあるが、重要な問題であるのにまだほと
んど誰も研究していない、という個所もぼう
大にある。∵
 【0】それらの分野では、まず、中学なり
高校なりを卒業すれ ば、あとは一人ででも
、入門書、参考書、基礎文献、その分野での
第一線の人びと同士の間の論争、というふう
に読みすすんでゆくことはたいてい可能だと
思うし、大学へなど行かなくても、どんどん
勉強してゆくことができる。私がやった映画
などはまさにそういう分野で、私の前にこれ
といって学ぶのに手間ひまかかる学者もいな
かったような分野である。独学が当り前で、
むしろ大学になど行っていても、そのほうが
回り道であるような学問分野だったのであ 
る。
 私は独学者なのかもしれないが、独学って
いったいなんだろう?

 (佐藤()忠男の文章による)