長文 4.2週
1.あし

2. 【1】二ひきの馬が、まどのところでぐうるぐうるとひるねをしていました。
3. すると、すずしい風がでてきたので、一ぴきがくしゃめをしてめをさましました。
4. ところが、あとあしがいっぽんしびれていたので、よろよろとよろけてしまいました。
5.【2】「おやおや。」
6. そのあしに力をいれようとしても、さっぱりはいりません。
7. そこでともだちの馬をゆりおこしました。
8.「たいへんだ、あとあしを一本、だれかにぬすまれてしまった。」
9.「だって、ちゃんとついてるじゃないか。」
10.【3】「いやこれはちがう。だれかのあしだ。」
11.「どうして。」
12.「ぼくの思うままに歩かないもの。ちょっとこのあしをけとばしてくれ。」
13. そこで、ともだちの馬は、ひづめでそのあしをぽォんとけとばしました。
14.【4】「やっぱりこれは、ぼくのじゃない、いたくないもの。ぼくのあしならいたいはずだ。よし、はやく、ぬすまれたあしをみつけてこよう。」
15. そこで、その馬はよろよろと歩いてゆきました。
16.【5】「やァ、椅子いすがある。椅子いすがぼくのあしをぬすんだのかもしれない。よし、けとばしてやろう、ぼくのあしなら、いたいはずだ。」
17. 馬はかたあしで、椅子いすのあしをけとばしました。
18. 椅子いすは、いたいとも、なんともいわないで、こわれてしまいました。
19. 【6】馬は、テーブルのあしや、ベッドのあしを、ぽんぽんけってまわりました。けれど、どれもいたいといわなくて、こわれてしまいました。
20. いくらさがしてもぬすまれたあしはありません。
21.「ひょっとしたら、あいつがとったのかもしれない。」
22.と馬は思いました。
23. 【7】そこで、馬は、ともだちの馬のところへかえってきました。そして、すきをみて、ともだちのあとあしをぽォんとけとばしました。∵
24. するとともだちは、
25.「いたいッ。」
26.とさけんでとびあがりました。
27.【8】「そォらみろ、それがぼくのあしだ。きみだろう、ぬすんだのは。」
28.「このとんまめが。」
29. ともだちの馬は力いっぱいけかえしました。
30. 【9】しびれがもうなおっていたので、その馬も、
31.「いたいッ。」
32.と、とびあがりました。
33. そしてやっとのことで、じぶんのあしはぬすまれたのではなく、しびれていたのだとわかりました。【0】

34.「新美にいみ南吉なんきち童話どうわ作品さくひんしゅう