1.
狐のつかい
2. 【1】山のなかに、
猿や
鹿や
狼や
狐などが、いっしょにすんでおりました。
3. みんなはひとつのあんどんをもっていました。紙ではった四角な小さいあんどんでありました。
4. 夜がくると、みんなはこのあんどんに
灯をともしたのでありました。
5. 【2】あるひの夕方、みんなはあんどんの
油がもうなくなっていることに気がつきました。
6. そこでだれかが、村の
油屋まで
油を買いにゆかねばなりません。さてだれがいったものでしょう。
7. 【3】みんなは村にゆくことがすきではありませんでした。村にはみんなのきらいな
猟師と犬がいたからであります。
8.「それではわたしがいきましょう」
9.とそのときいったものがありました。
狐です【4】。
狐は人間の子どもにばけることができたからでありました。
10. そこで、
狐のつかいときまりました。やれやれとんだことになりました。
11. 【5】さて
狐は、うまく人間の子どもにばけて、しりきれぞうりを、ひたひたとひきずりながら、村へゆきました。そして、しゅびよく
油を一合かいました。
12. かえりに
狐が、月夜のなたねばたけのなかを歩いていますと、たいへんよいにおいがします。【6】気がついてみれば、それは買ってきた
油のにおいでありました。
13.「すこしぐらいは、よいだろう。」
14.といって、
狐はぺろりと
油をなめました。これはまたなんというおいしいものでしょう。
15.
狐はしばらくすると、またがまんができなくなりました。
16.【7】「すこしぐらいはよいだろう。わたしの
舌は大きくない。」
17.といって、またぺろりとなめました。
18. しばらくしてまたぺろり。∵
19.
狐の
舌は小さいので、ぺろりとなめてもわずかなことです。【8】しかし、ぺろりぺろりがなんどもかさなれば、一合の
油もなくなってしまいます。
20. こうして、山につくまでに、
狐は
油をすっかりなめてしまい、もってかえったのは、からのとくりだけでした。
21. 【9】
待っていた
鹿や
猿や
狼は、からのとくりをみてためいきをつきました。これでは、こんやはあんどんがともりません。みんなは、がっかりして思いました、
22.「さてさて。
狐をつかいにやるのじゃなかった。」
23.と。【0】
24.「
新美南吉童話作品集」